13:スキルキャンディ!
俺が攻撃に加わってからは一方的だった。
剣をぶん投げるたびにズゴンバコンッ! と巨大ムカデの甲殻が吹き飛んでいき、悶絶の悲鳴を上げていく。
それによって向いた注目をテツが必死に奪い返してくれた。ジャイアント・センチピードの頭に乗って、先ほどまでのお返しとばかりにガンガンと頭に大剣を叩きつけていく。
さらにムラサメとサスケも大活躍だ。ムカデの脚を次々に切り飛ばしていって、その機動力を奪っていった。
『キシャシャァアアアアーーーーッ!?』
そうして五分後。スキル【暴走】の効果が切れようとしている時には、ジャイアント・センチピードは文字通り虫の息となっていた。
さぁ、あともう少しだ! 四人で一斉に攻撃を叩きこむ――!
「「「「いくぞーーーッ!」」」」
同時に炸裂する全力攻撃。それを受けた瞬間、巨大ムカデは絶叫を上げて倒れ伏したのだった……!
ヤツが光の粒子となって消えるや、パンパカパーンというファンファーレと共にゲーム中に音声が響き渡る。
『ワールドニュースッ! テツさん、サスケさん、ムラサメさん、レンさんのパーティが、巨大ボス:ジャイアント・センチピードを倒しました! 最速討伐完了!』
戦いが終わった瞬間、俺たちは「よっしゃーーーッ!」と揃って声を上げたのだった。
◆ ◇ ◆
「……すまなかったな、おぬしのことを戦力外扱いして……」
ボス攻略を終えた帰り道。テツにおんぶされた俺に向かって、急にムラサメが謝ってきた。
ってなんだよ急に?
「別に気にするなって。今回はたまたま活躍できたが、俺は筋力値極振りだからな。攻撃を喰らったらすぐ死んでただろうし。みんなが必死で注目を集めてくれたおかげだよ」
「むっ……そうか。ならばこれ以上謝るのも野暮というものか。
ところで筋力値極振りにスキル【暴走】を組み合わせたところで、あんなにも威力が出るものなのか? しかも使っている武器は最弱の初心者シリーズのようだが、そこらへんの情報をぜひともだな……!」
申し訳なさそうにしていたのも束の間、目をキラキラと輝かせながらポニテ侍は問いただしてきた。
やっぱ重度のゲーマーだなぁコイツ。強くなることに対してストイックすぎるというか何というか……。
間違いなく、アイテムボックス50枠を捨てられた初心者武器で埋めなきゃいけない【怨嗟の咆哮】の獲得条件には気付けないタイプだな。強い武器にしか興味なさそうだし。
「そうだなぁ、ヒントくらいは出してやるよ。……あんまり前だけは見過ぎず、周囲にも気を配れってな」
「むむむむっ……!? な、なんだかよくわからんが肝に銘じておこう……!」
「おう、そうしとけ」
たぶんお前の性格、そのままにしておくとすごいトラブルを起こすだろうからな。
そんな未来を想像して苦笑していると、テツが「そういえば」と俺に聞いてくる。
「よぉレン、そういえばボスからのドロップ品って何が出たよ? 実はボス戦だと低確率で、食べると一つだけ新しくスキルを獲得できる『スキルキャンディ』ってのが排出されるんだけどよ」
「あ~、そういえばそんなの一つ手に入れてたな」
そう言って手のひらに出現させると、三人が「お~!」と揃って声を上げた。
「そんなに貴重なものなのかよ?」
「あったりまえだろ! あれこれ面倒くさい条件を満たさないとスキルをゲットできないこのゲームだが、それを食えば一発なんだからな!
それにスキルキャンディを食べないと手に入らないスキルもいくつかあるしよ。プレイヤーに売ったら一千万ゴールドはするぜ?」
「へぇー、じゃあ売ろ!」
「って馬鹿っ、やめとけやめとけ! 一千万ゴールドするのは一か月あったベータテストも終盤の頃の話で
、今はみんなそんなに金がないから買ってくれねーって。
本当に貴重なものなんだから、自分で使うか取っておけって」
「う~ん、といっても俺が目指すのはスローライフなゲーム生活だからな……」
バトルは最低限にして、デカい農園とかでちょちょっと作業をしてあとはのんびりリッチに暮らしたいものだ。
いや、出来れば作業もしたくないな。ぶっちゃけ何もせずにラクして美味しい物食べたい……分厚いステーキが毎日食べたい……!
素直にそう言うと、悪友ははぁ~っと呆れ返った。
「オメェ、ファンタジー世界に何しに来たんだよ……」
「ダラダラしに来たに決まってるだろ。遊びの時間でガチバトルや地味作業なんてやってられるか。
つーわけで、ボス戦なんてこれっきりだからな? 俺はひっそりとスローライフを送らせてもらうからな」
「いやぁレンちゃん、そういうわけにはたぶんいかねぇぞ?
何しろワールドニュースで名前が読み上げられちまった上、ボスの初討伐映像ってゲーム内で見ることが出来るんだよな。
だから他のガチプレイヤーどもがオメェのことを知ったら、たぶん声をかけまくってくるぜ~?」
ファッ!? な、なんだそれっ、聞いてないぞッ!?
全てが終わってから知らされた衝撃の事実に、俺はショックを受けるのだった……!
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