宗郎は悪魔の憑依から抜け出せない。どうする由美
「宗郎。宗郎。由美よ。しっかりして。頑張って、宗郎。頑張って、宗郎。頑張って。」
由美は悪魔に憑依されている宗郎の内側から、由美が求めている真実の宗郎が、由美の前に出て来ようとして、必死にもがいているのを感じた。
真実の宗郎が悪魔の憑依に打ち克って、宗郎の奥から外に出て来ることを、由美は期待した。由美は、必死になって宗郎の名前を呼び、手を宗郎の顔の上に翳して、懸命に真実の宗郎を手招きした。
「うう・・・え・い・え・ん・・の・・あ・い・・の・・ち・か・い・・・」
「宗郎、しっかり。宗郎、がんばって。」
「うう・・・む・ね・お・・と・・ゆ・み・・の・・え・い・え・ん・・の・・あ・い・・の・・ち・か・い・・・うう・・・」
宗郎は苦しそうに、「宗郎と由美の永遠の愛の誓い。」と言った。由美と永遠の愛を誓った宗郎が、悪魔の憑依と必死に闘っている。由美は宗郎の名前を呼び続けた。
宗郎は、必死に悪魔の憑依を振り払おうとしている。もう少しで、真実の宗郎が蘇る。由美は「宗郎、宗郎。」と叫びながら宗郎の肩を揺さぶった。
「うう・・・ゆ・み・・」
「由美よ、由美よ、由美よ。」
「うう・・・あ・い・・・」
「宗郎、愛している。宗郎、愛している。宗郎、愛している。」
「うう・・ち・か・い・・・」
「宗郎、頑張って。宗郎、頑張って。宗郎、頑張って。」
「うう・・・え・い・え・ん・・・」
「永遠の愛よ、宗郎。永遠の愛よ、宗郎。永遠の愛よ、宗郎。」
「うう・・え・・い・・え・・ん・・・」
「宗郎、宗郎、宗郎。」
「うう・・・・しゅ・・ん・・か・・ん・・・・」
「宗郎、宗郎、宗郎。」
「うう・・・しゅ・ん・か・ん・・の・・・な・か・の・・・え・い・え・ん・・うう。」
「宗郎、宗郎、宗郎。」
「うう・・・え・い・え・ん・・の・・・あ・い・の・・ち・か・い・・・を・・・する・・・うう・・・しゅ・ん・か・ん・・・そ・の・しゅ・ん・か・ん・・・だ・け・は・・・うう・・・え・い・え・ん・・・・」
真実の宗郎の声は、苦しそうで、宗郎の声は今にも途切れてしまいそうであった。由美は、宗郎の口から漏れて来る言葉をひとつも聞き漏らすまいと、耳を集中し宗郎の口に耳を近づけた。
「・・・しゅ・ん・か・ん・・・しゅ・ん・か・ん・・・の・・・な・か・・の・・・え・い・え・ん・・・え・い・え・ん・・・うう・・・うう・・・」
「うう・・・う・そ・・・・え・い・え・ん・・・うう・・・う・そ・・・」
宗郎は消え入りそうな金属音を発した。
「うう・・・ぼ・・く・・・は・・む・・ね・・お・・・ゆ・み・・・えいえん・・あ・い・の・・・ち・か・い・・・しゅ・ん・か・ん・・・の・あ・い・・の・・・ち・か・い・・・う・そ・・・」
由美は宗郎の言葉にますます集中した。
「うう・・・う・そ・・・あ・い・・・うううそ・・・え・い・え・ん・・・うううそ・・・ち・か・い・・・うう・・う・そ・・・。」
宗郎の言葉を聞くことに集中していた由美は、宗郎の言葉の様子が変わってきたのに戸惑いを感じ始めた。
「うう・う・そ・・・む・ね・お・・・う・そ・・ち・か・い・・・あ・い・・・う・そ・・の・・え・い・え・ん・・・。」
嘘、宗郎、嘘、誓い、愛、嘘の、永遠と宗郎は言った。宗郎は、永遠の愛の誓いは嘘であると言おうとしたのだろうか。まさか、そんなはずはない。由美には信じることのできない宗郎の言葉だった。
「こ・ろ・せ・・・こ・ろ・せ・・・。」
宗郎の恐ろしい言葉に、由美は思わず後ずさりして、宗郎から離れた。
もしも、宗郎が由美に誓った永遠の愛が嘘だとしたら、「宗郎を殺して由美も死ぬ。」と、悪魔が憑依している宗郎に言ってしまったことを由美は思い出した。
「あ・い・・は・・う・そ・・・こ・ろ・せ・・・ぼ・く・・・
・・を・・こ・ろ・せ・・・。」
宗郎の、由美への永遠の愛の誓いは嘘だったと、宗郎は言っている。由美は宗郎が言っていることが信じられなかった。
「ぼ・く・は・・・む・ね・お・・・ゆ・み・・・え・い・え・ん・・・あ・い・・・ち・か・い・・・う・そ・・・う・そ・・・こ・ろ・せ・・・ぼ・く・・を・・こ・ろ・せ・・・・。」
宗郎の永遠の愛の誓いが嘘であることは、架空の仮定でしかなかった筈なのに、宗郎の永遠の愛の誓いが嘘であることが、架空の仮定ではなく、本当のことであると宗郎の口から漏れた。宗郎の永遠の愛の誓いが嘘であることがあり得るだろうか。宗郎の口から、永遠の愛の誓いが嘘であったと由美の耳に届いても、由美は信じることができなかった。
「・・こ・ろ・せ。」
「むねおー。」
由美の目から涙が零れた。