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真実の宗郎が悪魔の憑依から抜け出るか

宗郎は嘘を吐かない。」


と、悪魔が憑依している宗郎は、由美をからかうように由美の言葉を真似た。由美は、悪魔が憑依している宗郎が由美と同じ言葉を言ったので、由美は「宗郎は嘘を吐かない。」と言えなくなった。


「宗郎は嘘を吐かない。」


悪魔が憑依している宗郎は、由美を嘲笑するように由美の言葉を真似て何度も「宗郎は嘘を吐かない。」と言った。


「宗郎は嘘を吐かない。」

「宗郎は嘘を吐かない。」


由美は耳を押さえた。


「もし、宗郎という男が、『きみを永遠に愛する。』と言ったことが嘘であったならきみはどうする。」

悪魔が憑依している宗郎は恐ろしいことを言う。

「宗郎は嘘を吐かないわ。」

由美は激しく反発した。

「ああ、そうだ。きみの言う通り、宗郎という男は絶対に嘘を吐かないということにしよう。宗郎という男が絶対に嘘を吐かないというのを前提としての仮定の話だ。だから、架空の仮定としよう。つまり嘘の仮定ということだ。嘘の仮定、つまり架空の仮定として、宗郎という男がきみに誓った永遠の愛が嘘であったなら、きみはどうする。」


宗郎は嘘を吐かない。宗郎が由美に誓った永遠の愛は、永遠に続く。それは疑うことを許さない真実だ。しかし、架空の仮定を想定した時、もしも、宗郎の誓った永遠の愛が嘘だとしたら、由美の結論はひとつしかない。


「宗郎を殺して、由美も死ぬ。」


と由美は言った。由美は、悪魔に憑依された宗郎の誘導尋問に誘い込まれて、由美の口から恐ろしい言葉が出てしまったことに気付いた。・・・「宗郎を殺して由美も死ぬ。」・・・なんて恐ろしい想像だ。「宗郎を殺す。」・・・そんな恐ろしいことを由美は一度も考えたことがない。愛する宗郎を由美が殺せるはずがない。由美にとって、宗郎は唯一無二の存在である。唯一無二の存在である宗郎を、どうして由美は殺すことができようか。由美が、宗郎を殺すことは絶対にあり得ない。永遠の愛を誓った宗郎が嘘を吐いたと考えることは、由美にはできない。だから、宗郎を殺すということは、想像することができない。

悪魔が憑依した宗郎の言葉巧みな誘導尋問に惑わされて、絶対に口に出してはいけない言葉を、由美は口に出してしまった。一瞬でも、「宗郎を殺す。」と言葉に出してしまうなんて由美には信じられない。


宗郎に憑依している悪魔はなんて残忍なのだ。由美は、宗郎に憑依している悪魔が憎くなった。由美は宗郎に憑依している悪魔を宗郎から一刻も早く追い出したかった。真実の宗郎に会いたかった。由美は頭の痛みをこらえながら、必死に叫んだ。


「宗郎。宗郎は宗郎なのよ。真実の宗郎に戻って宗郎。あなたに憑依している悪魔を追い払って。お願い。由美は宗郎に憑依した悪魔とは話したくない。由美を愛している宗郎と話をしたい。由美を愛している宗郎。お願い。出てきて。由美を愛している宗郎、出てきて。宗郎、宗郎、宗郎、宗郎。」


悪魔払いの儀式を知らない由美は、ひたすら悪魔に憑依されている真実の宗郎に訴え、懇願するだけである。由美は、悪魔を追い払って、由美を愛している真実の宗郎が、由美の前に出てくることを、宗郎に何度も訴え、何度も懇願した。

宗郎に憑依している悪魔の声を、由美は必死に打ち消しながら、


「宗郎、出てきて。」

「真実の宗郎に戻って。」

「宗郎、宗郎、宗郎。」


と叫び続けた。


由美の悲痛な声が薄暗い部屋に充満している時に、


「うう・・・・ぼ・く・・は・・む・ね・お・・・」


ベッドの宗郎が苦しそうな声を出した。その声は由美を嘲笑する悪魔の声ではなかった。宗郎の苦しそうな声だった。由美の一途な願いが、真実の宗郎に届いたのだ。

「僕は宗郎という男ではない。」といい続けた宗郎の口から、宗郎が宗郎であることを認める言葉を苦しげに発した。真実の宗郎が悪魔の支配に打ち勝って、由美の前に現れたのだ。

由美は歓喜し、宗郎の手を握り、「宗郎、宗郎、宗郎。」と、宗郎の名前を何度も呼んだ。


「うう・・・き・み・・は・・だ・れ・だ・・うう・・。」

「由美よ。宗郎。私は由美よ。宗郎、がんばって。」

「うう・・・ゆ・・・うう・・・み・・か・・・うう・・・。」

「そうよ。由美よ。宗郎、宗郎、宗郎。」


由美は宗郎の手を強く握り、由美が由美であることを懸命に宗郎に訴えた。


「うう・・ゆ・み・・・・・ぼ・・く・・は・・・うう・・む・ね・お・・だ・・うう・・・」


宗郎が由美を認めたことは由美の最上の喜びである。由美は宗郎の手を握り、宗郎を呼んだ。


「宗郎、宗郎、宗郎。」

「うう、あ・・い・・。」

「宗郎。愛している。愛している。」

「うう、え・・い・・え・・ん。」

「宗郎を永遠に愛している。宗郎、宗郎。」


宗郎は喘ぎながら声を出した。


「うう・・・え・い・え・ん・・の・・あ・い・・・」

「そうよ。永遠の愛よ。」

「・・・・うう・・・・」

「宗郎、宗郎。しっかりして。」

「うう・・・え・い・え・ん・・の・・あ・い・・・」

「永遠の愛。宗郎。永遠の愛。」

「うう・・・ぼ・・く・・は・・む・ね・お・・・うう・・・ゆ・・み・・・ゆ・み・・・・うう・・・」

「由美はここに居るわ。宗郎。宗郎。宗郎。」


由美は苦しそうにうめく宗郎の手を両手で強く握った。



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