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百合子の青い空  作者: 九里瑛太
12/13

暗夜の航海

≪暗夜の航海≫



 日も暮れて、辺りはすっかりと暗闇が支配する。春とは言え、まだまだ海の上は肌寒く感じずにはいられない。

 第二艦隊は、敵潜水艦の襲撃に備えるべく、対潜序列の陣形を取り、吸い込まれそうな闇夜の中、沖縄を目指す。

 波は思ったより穏やかに水面を揺らしていたが、その反面、空にはうっすらと雲が掛かり、次第に月を覆い隠して行く。

 静寂だけが支配する漆黒の海、沈黙と闇が続くその中を十三隻の艦艇がゆっくりと進む。

 目指す沖縄の海には、連合国軍の一大艦隊が待ち構える。何事もなく、このまま平穏無事に沖縄へ辿り着けるはずがない事は誰もが承知の上である。今回の任務が、それだけ過酷になるであろう事は予想が出来た。

 その前触れとでも言うのか、駆逐艦磯風の対潜ソナーに反応があった。二○時二○分、戦艦大和をはじめ第二艦隊全ての艦艇に緊張が走る。

 どうやら追尾しているらしく、相対速度を合わせ、ピタリと一定の距離を保ちながら艦隊の後方を潜航していた。

 攻撃を加えたくとも、こちらの射程圏外を悠々と航行している。手出しが出来ないだけに、何とも忌々しい限りだ。

 ところが、程なくして磯風の対潜ソナーから突如、敵潜水艦の反応が消えてしまう。さらに潜航したのか、はたまた索敵圏外へと逃れたのか、どちらにせよ第二艦隊の行動はすでに敵の知るところとなったようだ。

 不安と暗闇が周囲を包み込み、焦燥感を煽る──


 日付が変わり、四月七日を迎えた頃、低く垂れ込める曇から、しとしとと、冷たい小雨が降り始めた。暗夜の雨、艦隊にとって最悪の天候になりつつあった。

 このまま、天気の回復が見込めずに悪化した場合、敵機の発見が遅れ、対空戦闘に支障を来す。

 そのくせ、敵機にはこの雲が

丁度よい隠れ蓑となる。ただでさえ、味方機の援護が見込めない状況下での対空戦闘ともなれば、第二艦隊は絶対的に不利な状況に陥る事は明白と言えよう。

 そうでなくとも、今次大戦において航空機の有用性が立証された今、戦艦として世界一であったとしても、大和はもはや時代遅れの産物であった。直掩機のない艦隊にとって、この天候は決して歓迎できるものではない。

 まさに“暗雲立ち込める”と言うやつだ。


 午前三時頃、第二艦隊はようやく佐多岬を通過し、豊後水道へと入る。ここを抜ければ、いよいよ外海へと乗り出す事になる。

 第三一戦隊の対潜掃討任務は、この豊後水道までとなっていたのだが、三隻の駆逐艦、花月、榧、槇は、いつまでも名残惜しそうに尚も第二艦隊に随伴し続けた。


 未明から降り出していた雨もいつしか止み、東の空が徐々に白み始める。心配していた天気も、どうにか回復の兆しをみせ、雲の間からは星の瞬きが垣間見えた。

 後、数時間もすれば夜が明けるだろう。


 目指す沖縄は、この海のまだまだ遥か彼方である──




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