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百合子の青い空  作者: 九里瑛太
10/13

大和出撃す!

 櫻子の入学式が執り行われていた頃、彼女の父梅太郎が乗艦する戦艦大和は、山口県徳山沖にて停泊中であった。

 この日、早朝六時に大和は別の場所で待機していた第二水雷戦隊と合流し、出撃前の補給を受けていた。

 当初、大和をはじめとする第二艦隊の全艦艇は、沖縄までの片道分に相当する燃料しか補給されない予定だった。

 ところが、第二艦隊の閣僚達が揃ってこれに不服を唱えた。

 彼らにしてみれば当然である。特攻作戦とは言え、これではまるで、ただ死にに行くだけで万に一つの生還すら許されない、もはや捨て駒のような扱いと言えた。

 事実、連合艦隊司令長官の経験もある岡田啓介元総理は「国民を諦めさせるには、後二、三度特攻作戦を失敗する必要がある」と言う趣旨の言葉を遺している。

 それだけ、国民全体が戦争の熱に酔いしれていた証しでもあるのだが…

 海軍上層部でも、作戦自体には反対しながらも、大和の特攻には概ね賛成の姿勢をみせていた。

 そうした背景の中にあっても、第二艦隊参謀長を務める森下信衛少将は、方々に手を尽くし、ありとあらゆる手段を講じて生還の可能性を諦めず模索し続けた。

 その甲斐もあり、補給基地の担当官も「連合艦隊最後の作戦に際し、それでは大和があまりにも不憫である」と、燃料タンクの底に残った、帳簿外の燃料までも掻き集め補給を行った。

 おかげで、第二艦隊の艦艇は満載とまでは行かないまでも、沖縄までの往復分の燃料を充分に補給する事が出来たのである。

 これで、不慮の事態に陥り万が一にも作戦が失敗や中止になったとしても、彼らに生還する可能性が残されたと言う訳だ。


 慌ただしい出撃準備を終えた四月六日の夕刻一五時二○分、補給を終えた第二艦隊は遂に徳山沖を抜錨し出航する。


 出撃艦艇は──


第二艦隊第一航空戦隊

 戦艦

 『大和』


第二水雷戦隊

 二等巡洋艦

 『矢矧』


第四一駆逐隊

 一等駆逐艦

 『冬月』『涼月』


第一七駆逐隊

 一等駆逐艦

 『磯風』『濱風』『雪風』


第二一駆逐隊

 一等駆逐艦

 『朝霜』『初霜』『霞』


対潜掃討隊

第三一戦隊

 一等駆逐艦

 『花月』

 二等駆逐艦

 『榧』『槇』


 第二艦隊麾下の残存艦艇の中でも、稼動可能な僅か十三隻のみの出撃であった。



 前回の作戦、昨年十月の捷一号作戦の時は大艦隊を編成して出撃した。それに比べ、今回の作戦は小規模な艦隊の出撃となった。

 あの時の威容は、見る影もない程の有り様だ。まさに、雲泥の差と言えた。

 夕日に紅く染まる海原、静かに波打つ水面を見つめながら、何とも悲壮感漂う寂しげな出撃だと、梅太郎は正直、そう思わずにはいられなかった。

 だがその反面、期するものもある。自分には家族がいるのだ。家族を護りたいのだと──

 梅太郎は、家族の写真を胸元からそっと取り出し、決意を新たにする。




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