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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

桃太郎

作者: おそら


昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。

おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこ、と、川上から桃が流れてきました。

おばあさんはびっくりしてしましたが、いつもの冷静キャラを取り戻し、桃を家に持ち帰りました。

これはおじいさんも驚くだろう。

そう期待しながら、おばあさんはおじいさんを待っていました。

因みに、洗濯物は全て川へ落っことしてしまいました。

明日から一帳羅です。



数時間前

おじいさんが山で芝刈りをしていると、小さな籠を見つけました。

あやしがりてよりてみるに、籠の中には小さな赤ん坊がいました。

もしかしたら、捨て子かもしれません。

もしそうだとしたら、許されることではありません。

人一倍正義感の強いおじいさんは、そのような輩の行動に心を痛めました。

可哀想に私が代わりに育ててやろう。

そう思ったおじいさんは、赤子を抱き上げました。

すると、小さな一枚の紙が籠の中に入っていることに気が付きました。

その紙には、こう書かれていました。

『山田太郎様、あなたの息子です』

因みに、おじいさんの姓は山田です。名は太郎です。

おじいさんは大きな桃の生る、神々が宿るといわれる木から、桃を一つ、もぎ取りました。

罰が当たります。

そんなことは気にせず、おじいさんは作業を続けます。

桃の底のほうを切り取り、中の種を取り出し、その桃の中へ赤ん坊を入れました。

そして切り抜いた部分をもとの様に戻します。

これで見た目はただの大きな桃です。

そしておじいさんは、川へその赤ん坊……もとい桃を流します。

海で魚に食われて死んでしまったのなら仕方がない。

魚たちも、桃かと思って食べたものが人間だとは気が付かまい。

そう心に言い聞かせたおじいさんは何事もなかったかのように、芝刈りの作業の再開をしました。


「おじいさんや、見てください。こんなに大きな桃が、川上から流れてきました」

 その言葉を聞いたおじいさんの背中には一筋の汗がありました。

「せっかくなので、新鮮な状態で食べましょうか、おじいさん」

「そうですなおばあさんや」

「さぞかし食べ応えがあるでしょうな」

「そうですなおばあさんや」

「それでは包丁を持ってきましょう」

 その手がありました。

 赤ん坊が入っていることを知らないおばあさんが、そのまま桃ついでに赤ん坊を切ってくれれば、おじいさんへの被害はありせん。

 おばあさんが心を痛めようが、自分への被害はゼロです。

 そう思っていたおじいさんでしたが、

「おやおや、包丁じゃあ切れませんね。困りました。おじいさんや、その芝刈り用の鎌で切ってくれませんかね。もちろん、洗ってくださいね」

 そう言われて断れば、おじいさんは疑われます。

 自分でしなくてはならないことに対して、おじいさんは神を呪いました。

「そんなに固いのかい」

「それはもう、賄賂を渡した就職先並に」

「そりゃあ~固いのう」

 おじいさんは、おばあさんに自分の不安が見破られないように必死でした。

 おじいさんはまたもや自分に言い聞かせました。

 私は何も知らずにこの桃と一緒に子供を切る、一気に。

 子供がいたことには気づかなかった。

 桃が固いから力を入れて一気に切ろうとすることは不自然じゃない。

 あくまでも、私は桃が楽しみすぎて力が入ってしまったか弱い老人。

 おじいさんは小さく深呼吸をしました。

「それじゃあ、一思いに行くぞ~」

 赤ちゃんを。

 

 ドスッ‼

 

 確実なる手応え……とはなりませんでした。

 切れたのは上から五㎝ほど。

 中のほうまでは、刃が入りませんでした。

 しかし、まだおばあさんには赤ん坊がいることはばれていません。

 今度こそ仕留める。

「ほ~、こりゃあ~かたいのう」

 そして再び振り上げようとした瞬間に、

「おや、何か声が聞こえませんかね」

 ここで気付かれてしまってはいけない。

 平静を装う。

「何か聞こえたのかい」

「ええ」

「わしゃあなんも聞こえんかったがのう」

「この桃の中からくぐもった声が。おおやはり。おじいさんやこの中に赤ん坊がおる」

「赤ん坊じゃと?わしゃあそんなもん見えんぞ」

「いいえ確かにいます」

 どうする、もういっそおばあさんも赤子もここで切ってしまうか。

 いやしかし、私とおばあさんがここに住んでいるのはたくさんの人に知られている。

 さらにおばあさんにはたくさんの友達がいて、よく遊びに来る。

 いきなりおばあさんが死んでいたら、怪しまれるのは私。

 病気で死んだと言っても、私より何倍も元気なばあさんが病気で死ぬと思われるはずがない。

 万事休すか……。

「そっと切ってくださいね、おじいさん」

おじいさんはチャンスを逃しました。

おばあさんは赤ん坊を発見してしまいました。

「おやまあ、これはこれは」

「桃の中から赤ん坊が」

 おじいさんはわざとらしく驚きました。

「桃から赤ん坊が生まれましたよ、おじいさん」

 今この瞬間ほど、おばあさんのボケた頭に感謝したことはありません。

 よくよく考えてみると、もとからお婆さんは何も知りません。

 中に入っていた紙も捨てました。

 おじいさんが疑われる要素は、何もなかったのです。

 おじいさんは一安心。

「桃から生まれるなんて、奇々怪々じゃのう」

「そうですな。奇々怪々ですな」

「マジ奇怪ってしまったわい」

 おじいさんは安心しすぎて意味不明な若者言葉を使かってしまいました。

「それで、どうしましょう。この子供、捨て子ではないかしら」

 おばあさんは、ボケてはいませんでした。ボケただけでした。

「こんなことをするなんて、許せませんねおじいさん」

「そうじゃの、許される行為じゃないのう」

 頭も心も白々しいおじいさんです。

 おばあさんが、人一倍正義感の強い人でした。

 そんなお婆さんを前に、おじいさんは正義感の強いキャラを演じなければいけません。

 これはきつい。

「しかし、やむをえん事情かあったのかもしれんぞ」

「まさかおじいさん、こんな非人道的な人の皮をかぶった悪魔のような人間失格なことをする人をかばうとでもいうのですか」

「そんな馬鹿なことがあるわけがないだろう。たとえどんなことがあろうとも、子供を捨てるなど言語道断。この世の悪じゃ」

 おじいさんは言い切りました。

「そうですよねおじいさん」

「うむ」

「というわけで、この子は私たちが育てましょう」

「うむ?」

「このまま元の場所へ戻すなんてできませんし、本当の親がどこにいるかもわかりませんし、なにより子供を捨てるような親の元で育てさせるわけにもいきません」

「うん」

「もし戻って来たときは、ガツンと言ってやって下さいね、おじいさん」

「はい」

 こうして、おじいさんとおばあさんと赤子の3人暮らしが始まりました。

「しかし、この子、どことなくおじいさんに似ていませんかねえ」

「そうかのう」

「ええ、目元の辺りとか」

「儂には分からん」

「もしかしたら、神様から私たちへの天の恵みかもしれませんね」

「そうかもしれんのう」

「ふふ、そんなことあるわけないですけどね」

「そうじゃな」

 おじいさんの口数は少ない。

 

 こうして、桃から生まれた桃太郎は、おじいさんとおばあさんに大事に育てられました。

 そして、大人になった桃太郎はある日、

「おじいさん、おばあさん。わたくしは鬼退治に行ってまいります」

 この町の近隣で、鬼たちが暴れているという情報を聞きつけた桃太郎は、いてもたってもいられなくなりました。

「危険じゃ、よしたほうがいいぞ」

「そうです、おじいさんの言う通りです」

「でも、僕のおじいさんとおばあさんからもらった正義感が、僕をいてもたってもいられなくするんです」

「「桃太郎……」」

「おじいさんとおばあさんにもらったこの命、みんなのために使いたいんです」

「おお、桃太郎……」

「こんなに立派になって……」

「では、行ってまいります」

 桃太郎が行こうとしたとき、

「待つのじゃ、桃太郎」

 おじいさんが止めに入りました。

「なんですおじいさん。僕は今一分一秒が惜しいんです」

「お前に……話さなくてはいけないことがある……のじゃ」

「おじいさんっ」

「止めてくれるなっ!」

 おじいさんは桃太郎と向き合います。

「桃太郎……実はお前は……儂たちの子供ではないのだ……」

「……」

「ショックだと思うが……これは事実なのじゃ。お前は……桃から生まれたのじゃ……」

「桃から……?」

「そうじゃ」

「それはいったい……」

「正確には、桃の中にいるお前を、わし達は発見したのじゃ」

「おじいさんっ」

「止めてくれるなと言ったじゃろうっ‼」

「っつ!」

「儂だって……つらいのじゃ……。そして、桃太郎も、お前も辛い……」

 おじいさんの頬に一筋の涙がつたわる。

「じゃがっ、桃太郎に何も教えないことがっ、嘘をつき続けることが、もっとつらいのじゃ!」

「おじいさん……っ」

「今まで黙っていたことを……桃太郎……許してくれ」

 おじいさんの頬は、しわくちゃの頬は、涙でいっぱいです。

 おじいさんの目は、もう何も見ることが出来ていませんでした。

「……たよ」

「「……え?」」

「知っていましたよ、おじいさん、おばあさん」

 桃太郎は言った。

「実は僕、聞いてしまったんです、二人の話

 物心つく前に一度、トイレに行った帰りに、ふすま越しに二人の話が聞こえて。僕にいつ、本当のことを話そうかって。

 小さい頃のことだったので、その時は夢だと思っていました。

 でも五年前、また同じような状況で聞いてしまったんです。

 二人のどちらにも似ていないと思って悩んでいた時に、その話を聞いてしまって、これはもう信じるしかない、って。

 枕を涙で濡らす日が、何日も続きました。

 やっぱり、悲しかったんです。

 自分は捨て子だと思ったら。

 でも、そんなことは関係がないって、ある日気づいたんです。

 おじいさんとおばあさんの僕に対する愛情が本物だって気づいて。

 おばあさんの、日記帳を見ました。

 そこには、赤子だったころの僕のことがたくさん書いてあって、毎日大変そうでした。

 すぐに泣いたり、お漏らししたり、駄々をこねたり。

 そんな僕を育ててくれました。

 うれしいことも書いてありました。

 歩けるようになったとか、話せるようになったとか、反抗してきたとか、僕の成長を、いつも見ていて、嬉しそうに書いてありました。

 そんな、

 そんな毎日の出来事に一喜一憂している姿が思い浮かんで、笑えるのに、泣いてしまいました。

 おじいさんの手を見ました。

 僕を育てるために一生懸命働いてくれた手を。

 僕を立派にする為に、叱ったり、褒めたりしてくれた手を。

 そんな二人は……本物なんです。

 たとえ本当の親じゃなくても、

 僕が捨てられた子供だったとしても、

 受け継いだ愛情は、

僕がおじいさんとおばあさんから貰った温かさは、本物なんです‼」

「「っも、桃太郎‼」」

「では、行ってきます‼」

 そうして、桃太郎は鬼退治へと向かった。


 鬼。

伝説とされる生き物で、人々を飽きるまで食いつくし、災いをもたらし、村を焼き尽くす。

そんな生物は存在しないと証明された。

今存在する『鬼』は肌の色が若干ほかの人々とは違う、差別を受ける人々の総称だった。

男の鬼は、一日二十時間の強制労働。

女の鬼は、美人ならば売春、ブスならば子供を生産するだけの家畜として扱われる。

鬼たちが暴れているというのは、そんな世界に対して行う反対運動のことだった。

そこに桃太郎は、『人』として立ち向かった。

鬼たちの反乱を次々と鎮圧させていき、理不尽な契約も結ばせた。

さらに、自国だけでなく、近隣の国々の鬼たちも制圧していった。

もはやこの世に桃太郎の名を知らないものはいないというほどまでに、桃太郎は名を挙げていった。

桃太郎は人の『ヒーロー』という立場に立ったのだ。

 そのうえ鬼たちを使って、産業の革命にも成功した。

 桃太郎の業績の中でどれほどの鬼が死のうとも、存在そのものを否定されている鬼に人権はあらず。桃太郎が咎められることはなかった。

 それどころか、野蛮な鬼たちを次々と退治していったとみなされ、称えられることもあった。

 その後桃太郎は、次々と新たな事業を起こし、たくさんの子孫を繁栄させたため、『桃太郎』と『発掘』を掛け合わせた『Peach Digger』と呼ばれるようになった。

 

 めでたく桃太郎は鬼退治に成功し、鬼達から『大切なもの』……もとい『宝』を奪って、大金持ちとなり、おじいさんとおばあさんと幸せに暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし





            



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