作戦会議中
ほら、おもったとおり──
鷲尾のボーカルに張り合えるのは、玲のギターしかいない。
ステージを歩けば、都のベースもよく聞こえた。
目が合うと、にこっ、とほほえみをくれる。
観客に目をやれば、誰もがこちらを熱心に見上げていた。
めあては優勝経験のあるバンドや『B.E.E.』だったのだろうが、仕方なく聞いているわけでも、どうでもよさげでも、ないとわかる。
ここに来てよかったと、おもう。
このバンドで、ここに来てよかった、と。
だからこそ、ちゃんと最後まで歌いたかった。
あんなに練習した、絡み合うふたつのボーカルパート──
きちんと聞かせたかった。
聞いて欲しかった、ここにいる、この、すばらしい観客たちに。
くやしさと、情けなさがこみ上げる。
こんなにも、すごい仲間といっしょにステージに立っているのに。
自分だけが歌えないなんて。
用意してきた全てを、披露できずに終わるなんて……!
くやしい、くやしい。
自分の、力のなさがくやしい!
玲に、マイクを傾けるだけの自分なんて、望んではいない。
玲や、鷲尾に、助けられるだけの自分なんて──
「おい」
肩を叩かれ、はっとした。
隣に立つ玲の左手が、六弦から離れている。
それを見て、曲が終わっていたことに気づいた。
視界のすみで、鷲尾が来い、と手招く。
歌月を、ではない。
見れば、ドラムキッドのスツールから、すっくと譲が立ち上がる。
歌月はぎょっとした。
すたすたと鷲尾の元まで歩いて行って、その手からマイクを受け取っている。
見ていた歌月の頭を、玲が小突いた。
「歌子、ぼけっとしてんな」
「……ハイ」
みごとにかすれた声で歌月は応じた。
その耳に、ただいま作戦会議中でーす、というのんびりとした声が聞こえてくる。
目をやれば、なんと譲が、隣に立つ鷲尾からメンバー紹介を始めているではないか。
「どうする? 『ダイヤモンドダスト』、小僧を下げて、おまえがキーボード弾くか?」
歌月は首を振った。
そうして、気づく。
ステージにまだ居たいきもちは、ある。
でも、弾きたいのではなく──自分は、歌いたいのだ、と。
こんなにもくやしいのは、歌えないから。
歌うことを選んでしまった後悔などでは、決してない。
「私、一度も練習してないから。音止めもあるし、先輩たちの足を引っ張っちゃう」
それに──自分の不手際で、あんなに練習してくれた慶を下がらせるなんて真似はできない。
玲は、わかったとうなずいた。
と、歌月の左から陰が落ちてくる。
振り向けば、鷲尾がそこに立っていた。
「俺、一番からして歌詞があやしい」
「わかってるっつーんだ。歌子の代わりは俺がやる」
歌月は、鷲尾と顔を見合わせた。




