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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
4:六区バトル シーン1―決戦ライブ―
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作戦会議中

ほら、おもったとおり──

鷲尾のボーカルに張り合えるのは、玲のギターしかいない。

ステージを歩けば、都のベースもよく聞こえた。

目が合うと、にこっ、とほほえみをくれる。

観客に目をやれば、誰もがこちらを熱心に見上げていた。

めあては優勝経験のあるバンドや『B.E.E.』だったのだろうが、仕方なく聞いているわけでも、どうでもよさげでも、ないとわかる。

ここに来てよかったと、おもう。

このバンドで、ここに来てよかった、と。

だからこそ、ちゃんと最後まで歌いたかった。

あんなに練習した、絡み合うふたつのボーカルパート──

きちんと聞かせたかった。

聞いて欲しかった、ここにいる、この、すばらしい観客たちに。

くやしさと、情けなさがこみ上げる。

こんなにも、すごい仲間といっしょにステージに立っているのに。

自分だけが歌えないなんて。

用意してきた全てを、披露できずに終わるなんて……!

くやしい、くやしい。

自分の、力のなさがくやしい!

玲に、マイクを傾けるだけの自分なんて、望んではいない。

玲や、鷲尾に、助けられるだけの自分なんて──


「おい」


肩を叩かれ、はっとした。

隣に立つ玲の左手が、六弦から離れている。

それを見て、曲が終わっていたことに気づいた。

視界のすみで、鷲尾が来い、と手招く。

歌月を、ではない。

見れば、ドラムキッドのスツールから、すっくと譲が立ち上がる。

歌月はぎょっとした。

すたすたと鷲尾の元まで歩いて行って、その手からマイクを受け取っている。

見ていた歌月の頭を、玲が小突いた。


「歌子、ぼけっとしてんな」

「……ハイ」


みごとにかすれた声で歌月は応じた。

その耳に、ただいま作戦会議中でーす、というのんびりとした声が聞こえてくる。

目をやれば、なんと譲が、隣に立つ鷲尾からメンバー紹介を始めているではないか。


「どうする? 『ダイヤモンドダスト』、小僧を下げて、おまえがキーボード弾くか?」


歌月は首を振った。

そうして、気づく。

ステージにまだ居たいきもちは、ある。

でも、弾きたいのではなく──自分は、歌いたいのだ、と。

こんなにもくやしいのは、歌えないから。

歌うことを選んでしまった後悔などでは、決してない。


「私、一度も練習してないから。音止めもあるし、先輩たちの足を引っ張っちゃう」


それに──自分の不手際で、あんなに練習してくれた慶を下がらせるなんて真似はできない。

玲は、わかったとうなずいた。

と、歌月の左から陰が落ちてくる。

振り向けば、鷲尾がそこに立っていた。


「俺、一番からして歌詞があやしい」

「わかってるっつーんだ。歌子の代わりは俺がやる」


歌月は、鷲尾と顔を見合わせた。



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