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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
4:六区バトル シーン1―決戦ライブ―
93/118

いざステージへ

「うわー。なんか、六〇年代の白黒のコンサート映像思い出すわ、ストーンズの」


譲の声が聞こえた。

キーボードは、ドラムキッドの隣、ステージの後方にセッティングされている。

歌のバッキングは慶のギターに任せたが、キーボードのソロパートは歌月が弾くしかない。

一曲目にやる『Quartetto』など、ピアノ伴奏から始まるので、責任重大だ。


「それしってる。ビートルズも出てたやつね。場所はたしかウェンブリーアリーナ」


いちばん近くに立つ都が、ベースをアンプにつなぎながら言う。

ふと、都と目が合った。

シールドを引きずって、ショートパンツに黒いニーハイすがたの都が近寄ってくる。


「手」

「え?」


持ちあげた右手に、都の左手のひらが合わされる。

ぎゅっ、と指が絡んだ。


「先輩の手、あったかい」

「でしょう? 燃えてるもの。四位って、ちょうどいいわね。優勝は射程だけど、観客の方はまだ期待してない」

「そうですね」

「いつでもいけるわよ。モニターはたぶんアテにならないから、演奏が聞こえないときは浦部を見て。鷲尾も小早川も、ステージじゃ浦部の合図を頼りにしてるはず。浦部に従ってれば音が聞こえなくても、ちゃんと合うから」


うなずいて、歌月は離れていく都から、玲に視線を移した。

黒い、ギブソンレスポールカスタムを構えた玲は、上から下まで黒一色で、ボディ回りのバインディングとゴールドパーツが妙に映える。

マイクスタンドの高さを調節していた鷲尾は、羽織ったブルーのパーカーの袖を肘までまくり上げ、いかにも臨戦態勢だ。

慶の体勢を確認して、歌月は最後に譲を見た。

手にしたスティックを持ちあげ、合図をくれる。

歌月は、鍵盤に指をのせた。

さあ、いよいよ始まりだ────

息を吸い込み、キーボードに向かったまま歌える位置にあるマイクにきもち、顔を寄せる。


「『トリプルリード』……一曲目、『Quartetto』」


わあ、と返ってきた歓声で、マイクにちゃんと声が入っていることがわかった。

ほっ、とした瞬間、指がひとりでに動き出す。

右目で譲、左目で玲を、同時に捕らえる。

まるでそのときだけ、見えない三角形で心が通じているように感じた。

ハイハットが、控えめにリズムを刻む。

ピアノの伴奏に導かれ、玲のギターが遠くで歌い出した。

ベースも、サイドギターも、ステージ上ではよく聞こえない。

が、譲のキックドラムから繰り出される低音は見失いようがなく、スネアのひびきも鮮明に聞こえる。

正確なリズムキープと安定感こそが、譲のドラムの持ち味だ。

彼がいれば、ステージ上でひとり迷子になることもないと、歌月は安心した。




「白黒のコンサート映像」とは?

ニューミュージカル・エキスプレス(NME)誌主催で行われたポール・ウィナーズ・コンサート、の映像のことです。ふむ、ウェンブリーと言うからスタジアムとおもってたけど、屋内のアリーナだったのか、あれ。ビートルズの映像が有名ですが、ストーンズの映像がオススメ。ハーモニカ吹くブライアンのすごさに一目ぼれしたので。ヤードバーズの映像もある気が。

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