Moon Pride
「なあ、玲」
「あ? おまえはGサスフォーも、バレーのまま3フレットに移動すりゃーいいだけだ」
「……そうじゃなくて。前から訊きたかったんだけど。玲がすごいなっておもうギタリストは、日本にはいないの?」
「ハ? 何で今、そんな話になる?」
蒼太だけでなく、歌月の視線も受けて、玲はピックでこめかみを掻いた。
「あー……ひとりいる」
「うそ! 誰?」
「──マーティ・フリードマン」
「日本人じゃない!」
と言った声が、きれいに歌月とハモった。
「しるか。日本語の歌なのにこんなイケてるギター弾くやつがいんのか、とおもって徹に調べさせたら、弾いてたのがそれだったんだ」
「まぁ、ね。わかるけど。ちなみに、日本人は? 『折音』のレンさんとかどう。うちのOBだぞ」
「あのイケメンのファイヤーバード使い、な。ライブじゃ、冒険しすぎて自滅しまくってねーか。スタ録はいいフレーズ弾いてんのによ」
蒼太は、歌月と顔を見合わせた。
OBに敬意を払うタイプともおもえないが、邦楽だろうと意外にちゃんと聞いていることにも、おどろく。
しかし、まず突っ込むべきは──
「先輩……『折音』のギタリスト、本名は花蓮さんっていうんだって。イケメンじゃなくて、女の人ですけど」
「あ? うそ! あれ女なのか? ボーカルよりでけーじゃん。てか、あれも実は女か?」
「ノリは、声聞きゃわかるでしょ。男ですよ。そのふたりがうちの部のOBなんでしょ? お兄ちゃんが言ってました」
「そう。でも太陽先輩たちのふたつ上だから、入部したときには『折音』を結成して、すでに部をやめちゃってた後なんじゃないかな」
「みたいです。でも、文化祭はノリとレンも来ていっしょにやってくれたんだって。二、三回しか音合わせしてないのにバシッと決めて、そのころから超プロっぽかったー、とか言ってましたけど」
「文化祭、かぁ────どうしよっか?」
ちら、と横目で玲を見れば、いかにも適当に手を振り返す。
「そんなもん、どうでもいい。おまえらには最後だし、好きにすりゃーいいだろ」
「……そう」
蒼太は、小さくうなずいてほほえんだ。
玲を前に、言いたいことは飲み込んでばかりいる──
本当にヘタレなのは、慶ではなく自分だとおもう。
自分だけは、今も、逃げたまま……
『逃げない方がかっこいいとおもうなら、自分もそうしたいとおもうなら、今からだってそうすればいい。それでどんな反応が返ろうが、おまえが別の道を選んだって事実までは消えないよ』
慶へのことばが、自分の元にぐっさりと戻ってきた気がした。
──それでも。
まだ、蒼太は、ニセモノの自分を殺す決心ができなかった。
頭の中で、フレディの歌声が聞こえる。
かき消すように、蒼太はGマイナーのコードを八分音符でかき鳴らした。
サブタイトル……(笑)
たぶん、玲が聞いた、マーティのギターはソレではないかと。ちなみに、私はサンホラでの演奏で「このギター、いったい誰が弾いてんの?」とおもったクチです。




