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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
1:8月の荒れ模様 シーン1-三つ巴-
8/118

険悪な三年女子と二年男子と、三年男子

そのとき──


「るっせーぞ、おまえら! ちったー、音加減しろ!」


ピシャン、と開いた戸の音さえまるで聞こえなかったというのに、その怒鳴り声は電力で増幅された音を叩き割って耳に届いた。

歌月だけでなく、都も玲も、いっしゅん手をとめて目を向けたほどだ。

吠えるエレキギターにも唸るエレキベースにも負けない声量の持ち主など、そうそういるものではない。

なぜだか白い空手着すがたをしているが、れっきとした軽音部員三年、鷲尾わしおかいの顔がそこにある。

彼は、男らしい端正な顔にそぐわない少々間が抜けた表情を浮かべた後、ぼそりと言った。


「花巻だったのか……」


そくざに、ふいっ、と視線を背けた都が、アンプにヘッドホンを挿してしまう。

彼女でなければ、あんなベースを誰が弾くというのか。

歌月は、おもわずあきれた。

他にふたり、部にはベース弾きがいるが、ふたりと彼女の腕の差は歴然としている。

またパタパタと指は動きだしたが、もうその演奏は歌月の耳にさえほとんど聞こえなかった。

入口に立っている鷲尾では、なおさらだろう。

歌月には、怒られたからではなく、まるで鷲尾に音を聞かせたくなくて、都がヘッドホンへの出力に切り換えたように見えた。

一方の玲も、鷲尾のつぶやきこそ鼻で笑い飛ばしはしたものの、その叱責に対してはまるっきり無視を決め込んだ。

変わらない音量で、再度ギターを弾き始めた玲にずかずかと歩み寄り、鷲尾がアンプのダイヤル回す。

一気に、半分ほどまで音量が落ちた。

とたん、玲が実験台の上から蹴りを入れようと右足を振り上げたが、道着には生憎とかすりもしない。


「なにしやがる、このっ、アニオタホモヤロウ!」

「──おまえも居たんなら、音量下げさせるくらいしたらどうだ」


と、鷲尾は歌月を見て言った。

まるで、玲の悪口は耳に入らなかったように、きれいに無視をした。

玲はいつも彼を『アニオタホモヤロウ』と罵るが、実際に彼がアニメオタクで同性愛者なのかどうかは、わからない。

否定はしないが、激昂もしないあたり、事実無根なのではないかともおもう。

歌月は、肩をすくめた。


「先輩の耳には騒音でも、私にはどっちもすごい演奏でしたから」

「こいつのせいでどっかから苦情がきたら、部長の鴻池が謝りに行かなきゃならないんだぞ」

「あ? 歌子は関係ねーだろ。文句があるなら、俺のギターに張り合ってきた花子のやつに言ったらどうなんだ」

「…………花巻はいつも静かにしてるだろ」


それはそうだ。

けれど、都のことは叱れないんだろう、と遠回しに言った玲の指摘にも間違いはないとおもう。



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