『トリプルリード』
「──玲先輩は、外見より中身に問題アリかも。あと、三歳児がモテたいとかいう理由で、ギター始めるわけないでしょ」
「三歳からギター弾いてんのか! どおりで、日本じゃとんと聞けねーような、えぐいギターだとおもった。チョーキング一発でしびれさせるって、タダモノじゃねーよ。うちのミナトサンてば、正座して動画に聞き入ってたぞ。写メ見るか?」
「見せて。ていうか、それちょうだい。……でも、玲先輩のことだから、見せてもよろこばないだろうけど。ふーん、当然だ、とか言いそう」
「なるほど、そういうキャラか。ますます、都ちゃんとよくケンカせずにやってんな」
「いや、ケンカしてるよ。毎日。もう慣れた。慣れると、なんだか仲良さそうにも見えるから、ふしぎ」
歌月の顔を見ていた兄が、むにっと頬をつまむ。
「バンド、楽しいだろ?」
「楽しい。──大変なこともあるけど、演奏すると吹っ飛んじゃう」
「そうか。そうだろうな。けど、歌月」
「え?」
「ガッコやスタジオで練習してんのと、ライブはちがうぞ。バンドの本番は、ライブだからな。スタジアムライブで、受けて立ってやる」
「……へ?」
問い返したら、もう一方の頬までつままれた。
「へ、じゃねーよ。『トリプルリード』だか知らないけど、浦部はともかく、他三人も凄腕をそろえたのは、オレに負けたくねーからなんだろ」
そんなことを言った……かもしれない。
ちなみに『トリプルリード』とは、歌月が今回、自らのバンドにつけた名だ。
鷲尾がボーカルを引き受けてくれたらつけるつもりでいたバンド名だったが、断わられて以降、歌月は他の案をまったく考えていなかった。
動画投稿に際して、バンドを登録することになり、どうする、と蒼太に問われたとき、とっさにそれしかおもいつかなかったのだ。
みんな、聞いた瞬間、一様に変な顔をした。
が、誰ひとり反対してくれることもなく、歌子がそれでいいならいいんじゃね、という玲のことばで決定項にされてしまったという。
歌月も、ツインボーカルとなった今、なんとも変な名だ、とはおもっていた。
一応、二つがツインで三つがトリプルなら、四つは何、と訊いてもみたが、先輩たちから答えは返ってこなかったのだ。




