写真のコバヤカワレイ
『そういうことは、楽器のひとつも練習して、挫折してから言えっての』
いつかの兄のことばが、頭によみがえる。
楽器ではなく歌だったけれど……歌月は練習して、そして鷲尾の前にまんまと挫折感を味わった。
現時点では、かなしいかな、完敗だ。
だから、鷲尾を叩き出すことはおろか、気が変わっては困るからと文句のひとつも言うことができない。
でも、そう──
歌を始めて、まだたったの十日なのだ。
鷲尾にも、プロにも、紅白歌手にも、敵わないのは当然すぎるほど、当然のはなし。
『戦うって決めたあなたが、プライドを持って歌いなさい』
──はい、先輩。
鷲尾が歌ってくれるなら自分はその引き立て役でいい……なんて、決しておもわない。
現状を、言い訳になんてしない。
向上心は、凡才だって持てるのだと、歌月は知っている。
『どだい、そばにどんなギター弾くやつがいようと、関係ねーんだ』
そうだ──
だから、鷲尾の横だろうと、歌月は折られることなく歌ってみせる。
一歩も退かない。
負けなんて、認めない。
他の楽器に、逃げたりしない。
ぜったいに、鷲尾ひとりのボーカルより、ツインボーカルの方がかっこいいと────そう言わせてみせる!
「なあ、歌月……」
「なに?」
「あれだな──」
歌月の髪の束を指先でつまみながら、兄がぽそりとつぶやく。
胸の中なので、表情は見えない。
「あれって、なに?」
「バンドに入って、メンバーに相手してもらえ、とか言ったけどな」
「言ってたね」
「いざ、おまえがバンド始めて、ヤロウに囲まれてる写真とか見せられるとこう、さみしいもんだなー」
「……なにそれ。それに、囲まれてないでしょ。都先輩もいるもん」
「都ちゃんは、女子にカウントしていいものか、迷う」
「お兄ちゃん、失礼すぎ。あんな美少女つかまえて」
「コバヤカワレイってやつも、けっこうイケメンじゃねーか。やさしげーなツラして。巧くてイケメンとか、ギター小僧の風上にもおけねーな。ルックスがいまいちで、運動神経もねーやつが、最後に女の子にモテようとすがるアイテムがエレキギターってもんだろうがよ?」
どこから突っ込もうか悩んでいるうちに、兄は堂々と持論を展開した。
やはり、どこから突っ込むべきか、迷うところだ。




