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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
3:新バンド結成! シーン3-動画エントリー-
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プライドvs憧れ

一方、玲のためにボーカルパートを色分けした手書きの楽譜を見ていた鷲尾は、おい、と歌月をまるで下僕のように呼んだ。

心の底から蹴り飛ばしてやりたかったが、歌月はぐっとこらえて返事をした。


『Aメロ、俺にもソロを取らせろ。その代わり、サビの後半、ユニゾンから俺がハモにまわる。ここは三度でハモらず、まっすぐ歌え』


などなど、鷲尾は怒濤の注文をつけ始めた。

しかし玲の王様っぷりに慣れきった歌月は、あんた何様、と突っ込むタイミングを逸して──兄が聞いた動画の演奏と相成ったのだ。

おかげで、玲のギターと、都のベースのみならず、鷲尾のボーカルまでが合体した、念願のバンドサウンドが完成した。

まさに、歌月が意図したとおりになったわけだ。

しかしこの納得いかなさは、いったい何なのだろうとおもう。

うれしいか、うれしくないか、と言われたらたしかにうれしいのだが……

今以て、騙されている気がして、仕方ない。

なんせ、必死の頼みもすげなく断わっておいて、今さらのこのこと来てバンドに加わることに、鷲尾からは何の断りもないのだ。

当然、よろこんで受け入れられるはず、とおもっているのか、なんなのか。

そう──

いちばん納得いかないのは、結局、何ひとつ文句も言わずに受け入れてしまった、自分自身にだった。


『魁が歌ってくれるなら、おれのギターは伴奏のためだけにあるのでいいんだ』


そう言った蒼太を、自分はプライドがないと断じたのではなかったか。

これでは、まったく彼のことを批難できた義理ではない。

何も言えない自分が、くやしい。

くやしくて、惨めで、情けなかった。

プライドを持って歌え、と都に言われたのに……

ひとりでは戦えないと、玲を頼った。

その弱気が、鷲尾につけ込む隙を与えたということだ。

今さらあなたの力なんか要りません、と突っぱねるべきではなかったのか。

──プライドが、あるのなら。


『────プライド?』


蒼太の、虚を突かれたような顔をおもいだす。

まるで、自分のギターにプライドが必要だなんて、おもったこともない、とでも言いたげな表情だった。

プライド……?

そんなものが、必要なのだろうか。

いや、そもそも、歌月自身にだって、あったのか?

──玲にはある。

都にも、ある。

鷲尾にだって、あるはずだ。

だからこそ──自分は彼らの音に、歌に、あんなにも惹かれたのではないだろうか。

歌月には、ない。

始めて、まだたった十日そこらの歌に、プライドなどない。

あったのはくやしさと、意地と、……あんなふうに歌いたいという、憧れだけ。



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