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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
3:新バンド結成! シーン2-ボーカルの秘策-
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プライドと楽しさ

「都先輩は鷲尾先輩の歌にプライドが感じられない、って言ってましたけど」

「言ってたね……」

「部長にはお似合いです。だって、部長のギターにだって、プライドなんてないんでしょう?」

「────プライド?」

「部長は、ひとを楽しませるのが音楽だって言ったけど。やってる人間はどうなの? 歌ってる人間は? 本気で楽しくてやってますか?」

「………………」

「部長の望みがあのひとといっしょにやることなら、どうして空手より楽しいって言わせようとしないの? まるで、義理か義務感で歌ってもらってるみたいに言って。歌いたくなきゃ歌いたくないって言うでしょ、あのひと! 部長は甘えてます」

「そうだよ──甘えてるんだ。だって、おれのギターなんてどこにでもある、とくに選ぶ意味も価値もないものだよ。そんなこと、自分がいちばんよくわかってる」

「出会いに甘えて、平凡でいることを自分に許してきたんですか? それで、とくべつだったものを失って、後悔するのは部長ですよ?」


蒼太が痛そうに眉根を寄せた。

その顔が、失いたくないと言っている。

──当然だ。

失ったら、あんなボーカルは、もう、おいそれとは手に入らない。

どんなに後悔しても、手遅れになる。

でも今ならまだ、手の中にある大切なものを守るために、できることがあるはずだ。

選べるのは、自分の人生だけかもしれない。

それなら、せめて後悔しないための選択をすべきではないのか。


「部長。『課題曲』のヘビィメタルアレンジとか、どうですか」


歌月は、蒼太の腕を取った。

が、すぐに彼の腕は歌月の手をすり抜けてしまう。


「遅いよ」

「遅かないです! 演奏が雑だって、あのひとが歌えば何とかなります!」

「遅いんだよ。……おれには、魁の本気を求める資格なんか、とっくにないんだ」

「え……?」


資格、とは何なのか。

歌月にはさっぱりわからない。

そんな歌月の表情を見て、蒼太はあきれとも、憐れみともつかない笑みを投げた。


「妹ちゃん……君は、ほんとに小学生みたいだね。それで、玲とよく似てる」

「────それ、どういう?」


小学生みたい、というのは身長からして、まあ百歩譲ってわからないではない。

が、玲と似てる、とは聞き捨てならなかった。

都にも似たようなことを言われた気がするが、玲と似ているは、イコール紙一重的なバカだ、と遠回しに言われている気分になる。



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