歌のエネルギー
「劣化版なんて相手じゃないです。…………でも。そうか、もしボーカルが鷲尾先輩みたいな人だったら、喰われちゃう可能性はあるかも」
と、肩を叩かれる。
「心配しないでいいよ。魁みたいなボーカル、なんて……『六区バトル』にもうひとり居たかなー、くらいだから」
「それって、先月のチャンピオン──『White Storm』とかいうバンドのボーカルですか?」
「そうそう。ハーフだとかって、脚長くて、イケメンだったね。年は……『折音』世代なのかな。彼らも『ビートカフェ』に出てたバンドだから」
「たしか、七月のチャンピオンのオリジナル曲をカバーして優勝したんですよね?」
「あのふたつのバンドは、『ビートカフェ』時代からのライバル関係なんだって。アレンジャーがね、どっちも君みたいに小さいころから音楽教育を受けてるらしい。メジャー曲のカバーからして、相当かっこよかったよ」
「へーえ……」
あいづちを返しながら、歌月はミルクコーヒーを口に運んだ。
こく、と飲むと、甘みとひんやり感が消えた後から、ふっ、とアイデアが降って湧く。
「ね、部長。八月のチャンピオンがカバーした七月のチャンピオンのオリジナル曲を──別アレンジでカバーするってのは、どうでしょう?」
「エッ? ──あー、ナルホドね! おもしろいかも」
「でも優勝できなきゃカッコ悪い……かな」
「いいじゃない。そのアイデアとチャレンジがかっこいいよ。メジャー曲は来月から使えないし。『COSMOS』ならみんな知ってるから」
親指を立ててみせた蒼太に、歌月はうなずいた。
飲み終えた紙コップをくしゃりと潰して、蒼太は立ち上がる。
「そろそろ帰ろうか。駅まで送るから。あ、これ、今は使ってないやつだから、持って帰って何かの参考にして。他に百曲くらい入ってる」
「……ぜんぶ、アニソン?」
「うん。もちろん」
渡された音楽プレイヤーを手に問えば、微笑が返ってきた。
「先輩。ちなみに、アニソンの魅力って何ですか」
「──君は、聞いてどうおもった?」
「え、……と。今の二曲とか、知ってる範囲で言えば、すごいエネルギーがあるな、って」
「そうだね。全部ではないけど、アニソンのメッセージは基本、ポジティブで──おなじエネルギーでも、怒りとか不満とかロックらしい負のエネルギーっていうのは、あんまり持たない」
歌月は、蒼太を見つめた。
それはまるで、部の現状に不満ばかりだった自分といつもほほえんでいた蒼太とのちがい、のようにおもえたのだ。
ひとを楽しませるのが音楽だ、と蒼太は言っていた。
それは、ポジティブなエネルギーを聞くものに与えたい、という意味だったのだろうか。




