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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
3:新バンド結成! シーン1-発声の秘訣-
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惚れた弱み

「おい、花子。あれはセクハラじゃねーのか」

「あれに下心があるっての?」

「ねーな。ていうか、俺にもない! あってたまるか」


わめいた玲の後頭部を、ボカ、と徹が殴った。

未だに、歌月は彼と自分の頭を撫でてくれたひとが兄弟だということが、いちばん信じられない。

次に信じられないのは、やさしい譲とあの鷲尾が親友らしい、ということだが。


「浦部先輩」

「ん? 俺?」

「先輩って、鷲尾先輩とお友だちなんですよね?」

「あらためて、お友だちって言われると……何だけど。まあ、一応ね」

「あのひとって、何で、ああなんですか?」

「言ってやれ、歌子」

「ああ、って──」


苦笑してから、ぽり、と譲が頭を掻く。


「そんなにも、あのひとアニソンが好きなんですか?」

「え! いや、アニソン好きは鴻池だから。鷲尾はメタラーだよ。こう、ヘドバンとかして聞くようなやつ。ロニーなんちゃらディオは神、とか言ってるよ。玲はリッチーなんちゃらは買ってるだろ。レインボーとかやれそうなのにな、おまえら」

「なんちゃら、ばっかじゃねーか。そんで、コピーなんかやるかっつーんだ」

「これも、こうだし。あいつばっかりじゃないんだけどね」


譲が玲を見ながら肩をすくめてみせた。


「アニソンにこだわってるわけじゃないなら、あのひと、いったい何にこだわってるんですか」

「え。ええっと…………惚れた弱み、ってやつ──かな?」


歯切れ悪く言って、譲がちら、と慶といる蒼太の方に視線をやる。

歌月は、ぎょっとした。


「は? それってまさか、部長のこと?」

「だから俺が言ってんだろ、ホモヤロウって」

「事実なら、単なる差別じゃないですか。やめたげましょうよ」

「いや、事実かはわかんない。けど、他にどうも説明しようがないというか」


声を落とした譲が、人差し指を口の前に立てる。

確証はないのだろう。

が、それが理由だとすれば、あれほど都が嫌悪しているのも、納得できないではない。

歌月はそっ、と都を盗み見た。

例えば都が鷲尾を好きだったのだとしたら、これだけの美貌の持ち主よりも男を選ぶだなんて、さぞかし腹も立つだろう。

しかし──都は、兄のことが好きだったのではないのか。

歌月は、内心で首をひねった。


「何でもいいわ、放っときなさい。それよりもあなた、頭に本でも載せて歌ってみたら?」

「え、本を?」


歌月は、手にした空手の本を見た。


「下腹に重心があるとぐらぐらしないの。空手だってそうでしょ。きっと声も安定するわ」

「……なるほど」


試しに、歌月は本を頭に載せてみる。

ゆっくりと息を吸い、あー、と言い始めたとたん、ぐらりと本が傾くのがわかった。

むっ、むずかしい!


「録音までに、せいぜいガンバレ」


励ましてくれているとは到底おもえない玲のことばを、歌月は床に落とした本を拾いながら聞いた。




『レインボー』とは?

HR/HMを代表するギタリストな御大リッチー・ブラックモアのバンド、ですね。ボーカル、ロニー・ジェイムス・ディオは神、とは私でも知ってるくらいよく知られた称賛です。ちっこい体から、ものすげーボーカルが出てくるのに驚いたおぼえが。すみません、私、コージーのドラムにつられて聞いたクチで…。

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