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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
1:8月の荒れ模様 シーン1-三つ巴-
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「俺だったら、ベースにソロなんざ弾かせねえ!」

「おー、すげー。サンキュー、歌子」


こんなの全然すごかない、とおもうが、王様然としているようで、きちんとお礼は言うところが憎めない。

歌月は、彼のギターを聞いていたいきもちを振り切って、窓際へと歩み寄った。

と、足が視界に入ったのか、都が顔を上げる。


「おはようございます、先輩」


ヘッドホンを外しながら、こく、と都はうなずいた。

元々、無口なひとなのだろうか。

ただ、手招いて、そばの椅子を引いてくれたあたり、邪魔におもってはいないようだ。

歌月はホッとした。

兄いわく、「都ちゃんは中身けっこう男子だよ」らしいが、近くで見るとまつげの長さに圧倒されるほどの美少女で、緊張する。


「例の映像って、一曲フルであるの?」

「あ、あります」

「ほんと? 見たい」

「あ……でも、ところどころブレまくってて、雑音も入ってたりして──」

「そんなのいいわ。見せて」


大きな瞳で迫られて、歌月はあわててリュックからスマホを取り出した。

再生ボタンをタップするだけにして差し出せば、自身のプレイヤーからコードを引っこ抜いてスマホのイヤホンジャックに差し込む。

そして、ヘッドホンをアンプから抜いてしまった。

再生したとたん、アンプのスピーカーから雑音まじりの『B.E.E.』版『マイ・ジェネレーション』が流れだす。

ちら、と視線をやれば案の定、けっこうな音量にぎょっとした顔で玲がこちらを見ていた。

都は、小さな液晶に見入っている。

玲はギターを置くと、こちらにととと、と歩いてきた。

珍しいこともあるものだ、とおもう。


「歌子。その『マイジェネ』なに?」

「何って……部のページにリンク貼ったのとおなじです」


けげんな表情を見て、あっ、と歌月はおもわずこぼした。


「もしかして、先輩、スマホで『六区』見たりもできないんじゃ?」

「あ? 失礼だな。たまには見る。ってもスマホ持ってねーから、徹んちのパソコンでな」

「でしょうねー……これ、お兄ちゃんとこの新バンドの演奏です。こないだ『ビートカフェ』でやったやつ。今、『六区』内で話題になってる」

「あー、うちのOBってやつか。どおりでまともな演奏だとおもった」

「まともですか、これ?」

「ヘタクソが遊んだら音楽にはなんねーんだよ。こんなつまんねーギター、素人に弾かせたら騒音より聞けたもんじゃねーしな」

「じゃ、先輩が弾いたらどうなる?」

「あ? 俺だったら、ベースにソロなんざ弾かせねえ!」


スピーカーを指さして断言した玲を、じろりと都が振り返る。

互いの視線の間でバチッ、と火花が飛んだ──ような気がして歌月は仰け反った。


「なんか文句あんのか、花子」

「私が浦部弟だったらとっくに捨ててる、っておもっただけ」

「…………っ」


沈黙した玲の形相を見て、歌月は反射的に両手を振り上げた。

玲に向かってぶんぶんと振ってみせる。


「せ、先輩には、弟先輩といっしょにやるのが合ってるってことでしょ! ねっ、ねっ?」

「……歌子」

「えっ、は、ハイ?」

「弟先輩って呼び方、変だぞ」


不機嫌さが声に出ていたが、目に浮かんでいた怒りのほのおは消えている。

歌月は胸を撫で下ろした。

もしも玲が都に殴りかかりでもしようものなら、一五〇センチの歌月ではとても止められなかっただろう。



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