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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン6-鷲尾魁、について-
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魁の耳

「本人がやる気もないのに、仕方なく歌うのでいいわけ? 妹ちゃんが欲しいのって、その程度の歌なの?」


とたん、歌月が椅子を立つ。


「歌にプライドがあるから断わるんじゃないんですか? マイク持って、ステージに立って、手を抜くつもりなら断わる必要もないでしょ?」

「…………魁が何を考えてステージに立ってるかなんて、おれにもわからないよ」


蒼太は肩をすくめた。

歌月は、まだ何か言いたそうな顔をしている。

が、糸が切れたように椅子に座り直した。


「妹ちゃんは、魁と玲を同じステージに立たせたらおもしろい、ふたりがせめぎ合えばきっとすごいことになる、とおもってるんだろうけど」

「────」


視線だけが返る。

図星だったのだろう。


「おれも、それには賛成。でも、玲じゃ魁を駆り立てないってことだよ。魁にとって、ギターとボーカルは、同じ土俵の上じゃないんだ」

「え?」

「君は、そりゃあ玲のギターの方が圧倒的にすごい、と言うだろうし、それは事実なんだけど。魁にとっては、玲のも、おれのも、同じギターってだけなんだよ。あいつはたぶん、ギターなんて誰が弾いたって同じとしかおもってない」

「おっ……おんなじわけないでしょッ!」


再度立ち上がった歌月に、胸ぐらを掴まれる。

魁に言ってくれ、と言う代わりに、蒼太は視線を逸らせた。


「うん。でも、スタジオ録音とライブ音源はいっしょだって言うし、アレンジがちがっても、メンバーが入れ替わってても、区別ついてないよ」

「──耳、腐ってんですか」

「まあ、要は、歌しか聞いてないんだよね。歓声が入ってるからライブだなーってくらいで。高音のフェイクや歌詞のまちがいがなければ、同じってことになるみたい」


手は離してくれたが、歌月はものすごーく納得がいかなそうな顔をしている。

でも、音楽をどう聞くかは人それぞれなのだ。

自分とちがっていたからって、間違っているわけじゃない……と蒼太はおもう。


「バンドの音ってね。才能のあるなしじゃなく、人間関係の産物だから。本人がいっしょにやりたくないなら、いいものにはなりっこないよ」

「でも──」

「おれが君なら諦めないで、バンドの方をやめるかもしれない。だけど、君は自分で歌えるんだから、そんなばかな二択はしなくてすむ」


歌月の目が、蒼太を凝視した。

歌月にとっては、玲のギターと自分のギターを同列に並べるなど、言語道断にちがいない。

けれど──蒼太にとっては、玲のギターと魁の歌を同列に並べることだって、十分に理解し難いことなのだ。

魁の歌がなくても玲のギターさえあればいいというのなら、それでいいではないか。

蒼太は、魁の歌がないならバンドをやる価値などないとおもう。

魁の歌が、他の楽器なんかと比較になるわけがない。

玲のギターが、何だと言うのだ。

いいボーカルはギターを選ばないが、ギターはいいボーカルを選ぶ──それが事実。

魁は極端かもしれないが、多かれ少なかれ観衆はまず、演奏に乗っかっている、ボーカルの歌を聞くのだから。

世界にはたしかに五人くらいは、ボーカリストを喰うギタリストというのも存在する。

仮に、玲がその類であるなら──魁の歌など諦めれば済むことだ。


「キーボード、弾きたくないなら早めに言ってね。他を当たらなきゃいけないから」


まだ、どこかあっけにとられた顔をしている歌月を放って、蒼太はギターを置いてある入口付近の席に戻った。



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