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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン5-ボーカルで賭-
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賭けに勝った都

「泣くほどのこっちゃないわよ」

「な……泣いてません」

「泣いてるわよ」

「──そうだ、先輩。ぐす。……鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス」

「ハ? 何?」

「あとのふたつって、何だったか、わかりますか?」

「鳴くまで待とう、が家康ね。秀吉は何だったかな。鳴かせてみせよう、だったかしら? それが?」


鳴くまで待とうと、鳴かせてみせよう──

いったい、どちらが言いたかったのか、本当にそのどちらかだったのかも、歌月はわからなかった。

だから、べつのことを訊いてみる。


「どれが、いちばんロックだとおもいますか?」

「いい質問。答えは、──どれもよ」


それは意外な答えだった。

おもわず見つめたら、肩を抱いてくれたままふわりと都がわらう。


「鳴くまで待とうは、さしずめフォークロック。鳴かせてみせようは、パンクかしら。殺してしまえは、デスメタルね。何でもあり、がロックよ」

「何でもあり?」

「そうよ。本音と哲学と美学があれば、何だっていいの。ホトトギスの句には、ちゃんとあるでしょ。なきゃ、ロックとは認められないわ」

「……先輩、おもしろい」

「あなたもね。もっと早く、話してれば良かったわ」


よしよしと、まるで妹か何かのように、頭を撫でられる。

美人はいい匂いがするものなんだな、と離れていく都の夏服姿を見ながら、歌月はしみじみとおもった。




* * *




「うわあ! ……びびった!」


ギグバッグを肩から下ろしながらリビングのドアを開けた兄が、仰け反った姿勢でしばし固まった。

ぺこり、と無言で頭を下げたソファに座る美少女を、まん丸な目が凝視している。


「おかえり、お兄ちゃん。アンプ借りてるから」


言えば、兄の視線が、都の抱えたチェリーサンバーストのジャズベースからシールドを伝って、同じフェンダー製のコンボアンプに移った。


「つか、部屋ん中入ったのかよ。アンプ取っただけか。他のとこ、漁ってねーだろうな?」

「漁ったら何が出てくるわけ?」

「…………。まあいい。久しぶりだな、都ちゃん。妹と、仲良くやってくれてんだ?」


そばに来た兄と都の顔を、歌月は見比べた。

以前に比べたら仲良くなったと言えないこともないだろうが、都がここにいる理由は、単に、歌月が賭けに負けたからだ。

でも、太陽先輩には言っちゃダメ、と桃色の頬で口止めされた以上、説明するわけにもいかない。


「いっしょに、『六区バトル』に出るんです」

「えっ──マジ?」

「あら。言ってなかったの?」

「……一昨日は、まだ先輩たちにやってもらえるかわからなかったし。昨日はお兄ちゃん、家に帰って来なかったし」

「………………へえ、そう」


冷房では説明のつかない冷気が、いっしゅん、リビングに満ちた。


「いっ、今の都ちゃんといっしょ! メンバーの家に泊まったんだ」

「知ってるよ。いつものことだし」

「都ちゃんも泊まるんだろ? まさか、こんな遅くには帰らないよな?」

「このソファってたしかベッドになるんだよね? お兄ちゃん、後でやって」

「え! ここで寝るの? 歌月の部屋じゃなく?」

「私の部屋にソファなんて持って行けないじゃん。ベッドはシングルだし、床で寝ろっていうの」

「そうか……いや、都ちゃんがいいならいいけど…………」

「──先輩がつき合ってくれるなら、徹夜でもいいです」


どういう意味っ、とおもわず歌月は都の顔を見た。



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