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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン5-ボーカルで賭-
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ホトトギス

「他を当たれ」


稽古を邪魔されたことも、告白の呼び出しかーなどと空手部員にからかわれたことも、べつに怒っているふうではなかった。

なかったが──

とりつく島がない、とはこのことかと歌月はむしろ感心してしまう。

そのくらい、容赦のない拒否だった。

玲にはまだ対話の余地くらいあったが、鷲尾は早々に背を向けて去ろうとした──ので、歌月は道着の裾を引っ掴んで引き留めた。

が、けっきょく、何を言っても変わらなかった。

歌月がどれだけ頼んでも歌わない、と言い切った都が正しかったと思い知らされただけだ。

でも、納得などできるわけがない。


「どうして他じゃ歌おうとしないんですか!」

「おまえに関係あるか?」


まったくだ。

まったくだが!

反射的に、この男を引っ叩いてやりたい、とおもった。

約三十センチ差をものともせず、ぶんっ、と手を振り上げてから、まるで動じる気配のない相手に、歌月ははたと気づいた。

この男は空手をやっていて、並の男など比べ物にならない腕っぷしなのではないのだろうか、と。

そんな人間をおいそれと引っ叩こうものなら、どんな反撃が返ってくるかわからない。


「どうした? 叩いて気が済むなら、叩いて行け」


歌月は、手のひらを握って、ゆっくりと下ろした。

叩いてやりたいが、──それで気が済むなら、だと?

気が済むわけがない!

その程度だとおもっているのかと、怒りで目の前が真っ赤になった。

自分の歌を、この男はその程度だとおもっているのか、と──くやしくて、くやしくて、くやしくて……腹が立つ。

腹を立てている自分自身に、いちばん腹が立った。

それでも、こんな男の歌は好きだとおもう自分が、自分で──許せない。


「…………鳴かぬなら、ナントカカントカ、ホトトギス」

「──は?」


鷲尾の声に応えず、歌月は踵を返した。

殺してしまえ、はすぐに思い出したが、自分が言いたかったのは別の何かだった気がする。

考えても、思い浮かばない気がしたので、歌月は考えなかった。

今は、殺してしまえ、以外は浮かびそうになかったから。

その声を……知らなければ殺してしまえるのかもしれないが、きっと、知っていたら殺すことなどできない──

知っていたら、諦めることなど、できない。

くやしいけれど、できないのだ。

ぽろりと、涙がこぼれた。

もしかしたら後ろからまだ見られているかも──そんな気がしたから、歌月は頬を拭わないまま、廊下を歩いた。

ぎしぎしと、木が軋む不気味な音を聞きながら。

角を曲がると、旧校舎からの渡り廊下の向こうには、なぜか、都が立っていた。

歩ききった歌月を、両腕を開いて、迎えてくれる。



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