3バンド掛け持ち
「部長?」
「ああ、ごめん。じゃあ、本題に戻るけど。九月のライブ、もう一曲はこれをやろうかとおもうんだ」
『RUN!RUN!RUN!』というタイトルのバンドスコアを差し出すと、慶がタイトルだけを見てこっくりとうなずいた。
「大丈夫です」
「そう? けっこうテンポが早いんだけど。ちょっと、聞いてみて」
自分のデジタル音楽プレイヤーを、再生ボタンを押すだけにして差し出す。
慶がイヤホンを耳に挿して少ししてから、スティックをにぎりしめた譲がよろよろと歩いてきた。
「なんか、お疲れ?」
「玲と花巻、ダブルって強烈ー! 今まで、玲にさんざん手を焼かされてるつもりだったけど、もうひとりが徹で心底よかったとおもうわー」
「玲は、徹の言うことなら聞くからね」
「うん、でも、長勢ちゃんの言うことも、何だかんだいって聞いてる。花巻にちょいちょい毒を食らってもガマンしてる玲って、けっこう新鮮」
「あの玲にガマンなんて機能がついてるとは、びっくりだな」
蒼太は、ギターを抱えた玲と六弦をのぞき込むようにしてやりとりしている歌月の後ろ姿に目をやった。
ああしていると、ほんとうに小学生くらいにしか見えない。
と、譲がスティックの先をかちかちと合わせながら、あのさ、と切り出す。
「ん?」
「長勢ちゃんに、ドラム叩いてって言われたんだけど。やってあげてもいいかなー?」
「ああ。そりゃ、譲に頼むよね。でも、徹じゃなくて都がベースやるんだろ? いいの?」
譲の手が、自分の首のうしろを撫でた。
どこか、くすぐったそうな顔をしている。
「今まで、徹の手前、俺のドラムにはそこまで文句つけられなくて、玲は妥協していっしょにやってるもんだとおもってたんだけどさ」
「ちがったんだ?」
「いや、玲は妥協もしてるんだとはおもう。でも、長勢ちゃんに、バンドではギターとドラムの相性こそが大事なんだ、って言われて。玲のギターには俺のドラムが合ってるって言うから……なんか、そんな気になってきた」
「そっか。やる気出てるなら、いいじゃん。他のバンドでやったらクビ、なんて言わないし。言ったからって、どうってこともないだろうけどね」
蒼太は肩をすくめて笑った。
ぽり、とスティックの先で譲がこめかみをかく。
『RUN!RUN!RUN!』とは?
アニメ「ワンピース」のEDです。かなり初期のころの曲。ワンピなら有名だし、とおもったけど古すぎるので若者は知らないだろうな。




