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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
プロローグ:参戦事情
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帰宅する電車の中で、歌月は撮った動画の一部を『六区』内にアップした。

そして、『六区』の中で仮想音楽事務所として登録されている『兎ヶ丘学園軽音部』のページにリンクを貼りつける。

現役の軽音部員はみな、一応、そこの所属になっていて、グループとしてメッセージのやりとりや情報を共有できる仕様になっていた。

しかしこの一年、投稿といえば部員たちで結成されているバンドのエントリー動画のみに限られ、一切の交流はない。

ここに、それを公開して、どうしようというのか──

歌月自身にもよくわからない。

ただ、誰かと共有したかった。

きっと、何の反応も返らないだろうと、わかっている。

それでも、誰かに、わかって欲しかった。

“ロック”に圧倒された、この沸き立つような情動を。

いつもなら兄に伝えるが、こればかりは兄と共有できる感情ではない……そうおもう。

あの演奏をやってみせた側と、話すべきことなど何もなかった。

どんな感想も賞賛も無意味だ。

あれは、彼らからの挑戦状────

圧倒できるとわかっていてやった人間に、何を言える?


──これ、OBたちのバンド(兄を含む)です。

『六区バトル』で天下を取る、とか言ってる。

戦いたく、ないっすか?


打ち込んだ自分の文を見て、戦いたい、そうおもっていたのだと歌月は気づいた。

あれと、戦いたい。

バンドで──

ロックという、土俵の上で。

それには、ひとりでは無理だ。

バンドとして、力を合わせる仲間が要る。

だから、部員の目に触れる可能性にすがって、カキコミをせずにはいられなかった。

軽音部の部員は、現在、八人。

五月ごろまではあとふたり一年がいたものの、四月から始まった『六区バトル』に参戦する仲間を学外で見つけたとかで辞めていった。

部員で結成されたバンドは、ふたつ。

歌月は、そのいずれにも属してはいない。

ひとつはアニソン限定のコピーバンドで、もうひとつはプロをめざしていると豪語するオリジナルバンド。

はっきり言って、対極とも呼べるほど、音楽性も趣味も方向性もちがう。

けれど、一方には圧倒的なボーカルがいて、もう一方には天才ギタリストがいた。

このふたりが手を組めば、『B.E.E.』だろうと、決して目ではないはずだ。

そして、もうひとり……


──このクソやばいベース、太陽先輩なの?

『六区バトル』やるってナニソレ、くわしく聞かせて!


日付がとっくに変わったころ、歌月のカキコミに対して、そうひとつのコメントがついた。

コメント者の登録名は、MIYA──フルネームを、花巻都という。

もっとも、歌月がそのコメントを目にしたのは、夏休みの遅い朝を迎えた翌日のことだった。



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