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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン3-メンバー交渉-
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交換条件

「こいつに──ベースをおしえろ。もちろん、花子が!」

「…………へあ?」

「──オイ?」


徹も、あっけにとられた顔をしている。

ふんっ、と玲は鼻を鳴らして腕組みした。


「もっかい言って欲しいのか?」

「う、……いやいや。まっ、待って。さっきのは、売りことばに買いことば的なやつで──弟先輩には、弟先輩らしいベースがあるというか」

「けど歌子。おまえ花子のが巧いとおもってやがるだろ」

「っ────」

「事実、巧い」


歌月は顔を背けて返答を保留したが、徹自身があっさりと認めた。

歌月の背中を、冷たい汗が流れ落ちる。


「巧かろうが何だろうが、俺はリードベーススタイルってのは嫌いだ。嫌いだけど──弾かないのと弾けないのは、はなしが全然ちがう!」

「弾かないなら、弾けなくてもいいんじゃ……?」


ぼそり、と言ってみたが、玲ににらまれただけだった。


「デカイ顔したベースは嫌いだけど、ベースをバカにされんのはもっと腹立つ。ロックの出来を決めんのはソロじゃなくリズムだからな!」


玲が、びっし、と徹を指さす。

歌月も、徹を見た。


「俺のギターはいらないからベースだけ欲しい、とか言われるようになってみせろ。そしたら、俺はおまえを引き留めるギターを弾く!」


宣戦布告なのか、それとも愛の告白か何かか。

歌月は、おもわず玲と徹の顔を見比べた。

と、徹が大きなため息をつく。

ぎくり、とした。

また、徹のハードルを自分が上げさせてしまったのでは、と蒼くなる。


「こっちがその気でも、向こうが何て言うか、だろ」

「歌子、行け──」


都のいる窓際を、玲があごでしゃくる。

歌月は、うなずいた。

さっきの玲から受けた圧力を考えれば、都にはなしをするくらいは朝飯前だ。

ただ、オーケーしてくれる確率が、どのくらいあるものなのか。

断わられたら、玲の説得からやりなおしになってしまう。


「────今、なんて言ったの?」


意を決して話しに行くと、ヘッドホンを手に耳を傾けてくれた都が、つっ、と目を細めた。


「え、ええっと……ですから、玲先輩にギターを弾いてもらうのと交換条件で、都先輩に、その、ベースをおしえてもらえないかと…………」

「それ、小早川が言い出したわけ?」

「……はい」

「そう──」


きれいに三拍ほどおいて、くふっ、と都が吹き出した。


「──せんぱい?」

「おっ、かしい。あの小早川が、私に、ベースをおしえろ、とか……」

「れ、玲先輩にじゃなく、弟先輩の方に……デス」

「わかってるわよ。浦部弟にでしょ。でも、小早川が言い出したのね?」


どこか笑み混じりの視線が歌月を見上げてくる。

じっ、と見つめられる理由が、わからない。

玲ではなく、徹が頼んでるのだと言った方がよかっただろうか……そんなことを考えたとき──

都が、すっと立ち上がった。



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