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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン3-メンバー交渉-
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援護射撃

「断わる」

「どうして──?」


はっ、と歌月は徹を見た。

訊いたのは、歌月ではなく、徹だった。

むっ、と玲が口をへの字にする。


「ベースが気に入らねーからだ。どーせ、花子に弾かせる気なんだろ?」

「おまえホモか」

「ハぁぁぁ!?」


歌月はびくっ、とひるんだ。

玲が徹に掴みかかるのではないかと、本気で焦ったのだ。

けれど、徹は平然とした口調でつづけた。


「そう、おまえさんざん某先輩を罵ってなかったか、ボーカル断わられたとき。いったいどこがちがうんだ?」


ぐっ、と玲が黙る。

いつだったか、蒼太から玲が鷲尾にボーカルを断わられたという話は聞いた。

玲が鷲尾をアニオタホモヤロウと罵倒しているのも、度々聞いている。


「おまえとしかやりたくねーって断わってるんじゃない。そういうベースとはいっしょにやりたくねーだけ!」

「……じゃあ、もしもこのベースを弟先輩に弾いてもらったら? それでも、気に入らない、いっしょにやりたくないっていうんですね?」


ぎっ、と玲がにらむ。


「弾いてもらうもなにも、そんなの徹に弾けっこねーだろ」

「先輩、練習すれば弾けるようになるって言いましたよ。向上心のない相棒を持ったおぼえはないって!」


口をつぐんだまま、玲がバッと立ち上がった。

下にあった視線が、いっしゅんで二五センチも上にくる。

歌月は、無意識に後退ろうとしたものの、うしろの実験台がそれを阻んだ。

わざとではなく、本気で泣きたくなる。

初めて、玲を怖いとおもった。

今あやまれば、せめて殴られずに済むだろうか。

でも、引き下がるのはもったいない気もした。

何より、徹が自分の味方をしてくれていることが、痛いほどわかるから。

いちばん腹を立てるべきは、きっと、彼なのに。

玲の相棒は彼だと知っていながら、自分は彼には弾きこなせないと玲さえも認めるベースラインを書いてきた。

──はなから、都に弾いてもらう気で。

ひどいことをしていると、おもう。

侮辱だと取られたって仕方がないくらいに──


「わかったよ。弾いてやる」

「……え」

「おまえのバンドで、いっしょにやってやるって言ってんだ。────そん代わり、条件をのめ」


きっと、ベースは徹にと言うのだろう。

だけど、歌月が聞きたかったのはそんなことばではない。

都と玲の音が合わさったところを、聞きたかったのだ。

どうして、わかってくれないのだろうか。

ぎゅう、と歌月は体の両脇でこぶしをにぎりしめた。

うつむいた目から、涙が今にもこぼれそうになる。



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