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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン3-メンバー交渉-
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『ベース』交渉

スマホに保存してきたデモ音源を、アンプに挿したヘッドホンで聞き終えた都は、伏せていた長いまつげをパッと持ちあげた。

ごく、と歌月は息をのむ。

美少女の視線に緊張するのは、なにも男だけではないらしい。

都が、ゆっくりとヘッドホンを外す。


「いいわよ」


ほんのり微笑を浮かべた顔は、いつにもまして美しかった。

歌月は、手汗のにじんだ両手をぎゅっと握る。


「ほ、ほんとですか?」

「リズムキープじゃなく、こーんなベースライン振ってくるなんて、さすが太陽先輩の妹。おもしろいわ──やってやろうじゃないの」

「あっ、ありがとうございます!」


椅子に座る都の前で頭を下げたら、でもさ、とつぶやきが聞こえた。


「……は、イ?」

「これってすこしくらい、いじってもいいの? カンペキ、このまま? まあ、悪くないとはおもうんだけど」

「──もっと、かっこよくなりますか?」


ははっ、と都が笑う。

おもわず周囲を見回せば、理科室の入口近くで、すでに来ていた蒼太があぜんとこちらを見ていた。

無理もない。

歌月だって、都が笑うところなど初めて見たのだから。


「あの?」

「そこなのね。わかった、ぜったいに、太陽先輩よりかっこいいベースを弾いてみせる」

「……お兄ちゃんより?」

「できないっておもってる?」

「いえ──お兄ちゃんが相手だと、火がつくのかーとおもって」

「そうよ。憧れだし、目標だし、認めさせたい相手だもの。あなたは?」

「私?」

「太陽先輩と戦って勝ちたいんでしょう? それで、何を認めさせたいの?」

「…………!」


戦いたいのは、勝ちたいおもいがあるからなのかもしれない。

けれど、何を認めさせたいのか──?

そんなものがあるのかどうかさえ、歌月は考えたこともなかった。

でも、ドクドクし出した心臓は、「ある」と言っているようにしかおもえない。


「ま、いいわ。でもね……このギターパートってあの俺様小早川に弾かせる気でしょ?」

「な──なにか、問題が?」


と、恐る恐る問えば、変な顔をされた。


「大有りじゃない? ふたつ返事で引き受けるとおもってるの? それとも、色仕掛けでもやってみる気かしら。私はそこまでしないわよ」


真顔で、色仕掛けがどうとか──

聞いている歌月の方が、恥ずかしくなってしまう。

あわてて、ぶんぶんと首を振った。


「しませんよっ! というか、私がやってもバカにされるのがオチです」

「そうかしら。やってみたら? あ──ダメだわ、今のなし。そんなこと言ったって知れたら、太陽先輩に怒られちゃう」


ひらひらと白い手が振られる。

この女性らしい手でベースをプレイしているなんて、いまいち信じられない。

都は、スカートから伸びた美脚を組み替えた。

こういうのを、世間では色仕掛けとか呼ぶんではないのだろうか、と歌月はおもう。



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