浦部兄弟
「長勢ちゃんもすごいよ。自分の曲をかっこよくしろとかいう玲のムチャブリに、みごと応えたんだろ?」
ほほえんでくれた譲から、歌月は徹に視線を流す。
譲のシャツをつかんで、体を寄せると、ふしぎそうな顔をされた。
徹ほどではないが彼も一八〇センチを越える長身なので、三〇センチ以上背が低い歌月はおもいっきり見上げなければならない。
「なに?」
「弟先輩、怒ってんじゃないですか。よけーなことしてくれやがってー、とか」
「は? 徹が? 何で」
「勝手にテンポ早くしちゃったから。玲先輩はノリ気だけど……」
と、くしゃくしゃと譲が歌月の頭を撫でてくる。
たしかに年下なのだが、何だか小学生くらいにおもわれていそうな触れ方だった。
「徹はやっさしーやつだからね、そんな心配いらないよ」
「……やさしい?」
やさしいのは目の前にいる兄・譲の方だとおもう。
が、譲は胸を張った。
「そうだよ。俺は、俺の弟よりやさしいやつを見たことがないね。なーんにも考えずに女の子にも接してる玲より、百倍やさしいよ」
「はあ──」
それは、あれだ。
兄の贔屓目、というやつにちがいない。
たしかに、玲ににらまれたことはあっても、徹ににらまれたことはない気がするが。
でも、少なくとも玲が誰かを殴っているところ、というのも見たことはないので、いい勝負ではないだろうかとおもう。
「ほんとだって。うちの部でいちばんいい男は、ぜったいうちの弟。ダチながら、鷲尾よりか断然おすすめする。俺が女の子だったら、ぜったいに徹を選ぶね」
「えっ。いや、あの……」
実兄として、その発言はどうなのか、と歌月はおもった。
しかし、下手につっこめば、まるで鷲尾に思い入れがあるようで、何も言えない。
「というかさ。兄貴としてすげー心配。玲なんかにつき合ってたら、ベースだけ弾いてるうちにジジイになっちゃうんじゃないかーって」
それは、至極もっともな心配だという気がした。
ベースを黙々と練習している徹に目を向けると、急に譲の声が近くなる。
「女の子の目から見て、徹ってどう?」
「ど、どう……って」
「お。顔が赤くなった。脈アリかな?」
「──な、ないです。っていうか…………チョー、話しかけづらい」
ほんとにあなたの弟なんですか、と訊きたいくらいだ。




