伝説の『マイ・ジェネ』
一応、撮ってやるか──
そうおもって歌月もバッグに手を突っ込んだときだった。
「曲は、『マイ・ジェネレーション』」
危うく、スマホを落っことしそうになる。
オリジナルは大昔のイギリス人バンドだとかいうけど、そんなことはどうだっていい。
この『ビートカフェ』のステージで、『マイ・ジェネレーション』といえば、歌月でさえ知っているほどの伝説になっている。
店の事前了解なしに、アンコールを受けて『折音』が演奏した曲──
かつてジャズの他は、フォークと、せいぜいがR&Bしか演奏されなかったというステージで、ゲリラ的にロックをやったのだ。
そのときの観客の盛り上がりが『ビートカフェ』でのロック解禁につながり、ひいてはこの店をロックカフェへと変貌させた。
そして、この街のロック熱は、まさにそこから始まったのだという。
もうかれこれ三年以上は前の話らしいが、今、『六区バトル』をやっている人間はすべて彼らの影響下にある、と言っても過言ではない。
ここで、その伝説の曲をやって、挑戦状代わりって、マジか──?
そうおもったのは、どうやら歌月だけではないらしい。
とたん、観客がざわつき、なんと半数近くがスマホのカメラを掲げてステージに向けた。
ステージからの光景は、さぞかし異様だろうとおもう。
しかし、アンプユニットの上から取り上げた水のペットボトルを口に運んだボーカルの表情は、余裕そのものだ。
キュッ、とふたをして脇に放り投げたペットボトルが、床に落ちた瞬間だった。
計ったように、ギター、ベース、ドラムスの音がいっせいにリズムを刻み出す。
伝説となっている『折音』の演奏がどんなものだったのかはわからない。
歌月は、オリジナルのバンドの演奏も聞いたことはない。
が、その日の『B.E.E.』の演奏はと言えば、上手かった前三曲の演奏をすっかり記憶から消し去るほどに、強烈だった。
全員がめちゃくちゃやっているようで、なぜか音楽になっていて、それが“ロック”だと思い知らされる。
『マイ・ジェネレーション』とは?
オリジナルは、1965年にThe Whoが発表しました。必聴はベースソロですが、必見はドラムキットに座ってるお方です!(笑) ドラムを吹っ飛ばす映像を、ぜひご覧ください。