唄うギター
半信半疑で聞き始めた歌月は、ピアノとベースにつづけてエレキギターが鳴り出した直後に、一小節目で、これだ──と確信した。
おもわず、笑ってしまう。
センスの塊、としか言いようのないクリアなエレキギターの音が、のっけから左チャンネルで唄っている。
中央でボーカルが歌い出しても、ギターはバッキングになどいかず、唄いつづけていた。
いったい、これは何なのか──
たぶん、すごいのは、ギターと同時進行で歌っていて、音に埋没することなく十分に聞かせるボーカルの方なのだろうとおもうが。
それにしたって、ギターの遠慮のなさときたら、おどろきだ。
ベースもうまい。
きっと、都のようなギタリストの経験者が弾いているのだろうとおもえるプレイで、唄うように音階を行き来している。
けれど、それでも、ギターの鮮明かつ力強いメロディラインはひときわ強烈で、耳について離れない。
玲が、これを好きだというのが、よくわかる。
玲のプレイの理想は、まさにここにあるのだろう。
歪みがなく音がクリアだからか、翳りのない音色は、チョーキングしていても泣きのギターと呼ばれるものとは印象がだいぶ違った。
哀愁を生む深いビブラートなども効かせず、非常に正確に音程をとっていく。
前者がブルースや演歌の歌手のようなら、そのギターはまるでオペラ歌手のような唄いっぷりだ。
ロックに、こんなギターもあるのか、と戦慄する。
でも、間奏以外でここまでギターを弾きまくるには、これほどにパワフルなボーカルが必要だ、ということも痛感させられる楽曲だった。
巧みなベースの上で、天才的な音色のギターがこれでもかと唄い、それに負けないボーカルが真っ向からぶつかる────
歌月が、都と玲と鷲尾、三人そろえば出来るのではないかとおもっていた演奏の、まさに完成形とも呼べるものがそこにあった。
かっこいい……!
文句なしだ。
玲のものだということも忘れ、歌月は音楽プレイヤーを胸に握りしめた。
誰と誰が弾き、誰が歌っている、何というバンドの楽曲なのか、さっぱりわからないが、これまで聞いたロックの中でも最高にかっこいい。
これがかっこよく聞こえる自分に、ビートルズの良さが理解できないのは当然だ、とおもう。
こういうスリリングな演奏を『六区バトル』のステージに持ち込めたら、ともおもった。
演奏が終わるなり、歌月はおなじ曲に戻り、リピート再生にする。
その後、立て続けに、いったい何度その曲を聞いたかわからない。
玲が返せと言わなかったので、そばで練習するふたりをそっちのけで、イヤホンから流れてくる曲に聞き入った。
このまま、音楽プレイヤーごとかっさらって帰りたい、とおもうがさすがに止められるだろうか。
『Blind Prayer』とは?
ナイショ☆ 探せば、誰の曲かくらいは見つかるはずです。ボーカルスタイルが彼の曲の中では極めて異色なのですが。だからこそ、ギターは生かされてる。しかし、ふつう声聞けば、誰が歌ってるかわかるよ(笑)




