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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
2:バンド結成へ シーン1-理想の音-
25/118

「エイトビート。裏拍で」

「……じゃ、音を止める──とか?」


と、徹の右手の動きがぴたりと止まった。

それでも音がすぐに止まるわけではないのが弦楽器だ。

ドラムスであってもシンバルを手で掴むなど、一切の響きを止めるミュートの動作が必要になる。

ライブでやるのは難しいかもしれないが、演奏者が三人ならタイミングを合わせる人数も最小限で済むのが、利点といえば利点だ。


「音を止める──だと?」


見たことない顔で固まっていた玲の視線が、ゆっくりとこちらを向く。

歌月はおもわず視線を逸らせた。


「えと、サビ前でピタッ……とか?」

「ちくしょう! 腐れ盲点だ。そんっな簡単なことでいいのかよ。なぜもっと早く言わない、歌子!」


ばしん、とテーブルを叩いてくやしがる。

言いがかりだ、と抗議しようとおもったら、またしても玲の頭が後ろから殴られた。


「れ、い」

「ぐ……よくぞおしえてくれた、歌子。礼として、『Just Now』を特等席で聞かせてやろう。ドラムが旅に出てっから、おまえ、手拍子な」


席もなにも歌月は実験台にもたれて立っている。

そして、譲もちゃんと理科室内にいた。

ただ、何やら蒼太たちと話しているというだけで。

まあ、言いたいことはわかるので、歌月は逆らわなかった。


「はあ。四拍子ですよね?」

「そう、エイトビート。裏拍で」

「それはそっちで合わせてください」


徹が椅子を移動して、玲の横に並ぶ。

うつむきがちの徹の視界にも入るように、右足と両手で同時に四拍子の拍をとる。

と、徹と玲が顔を見合わせた。

なぜか徹が苦い顔をしている──ような気がする。

何かまずいのだろうか、とおもって手を止めようとしたら、玲がピックを持った手で静止した。


「それでいい、歌子」

「……これでいくのか」

「リズムにのって、あとは手の動きに任せろ。アホみたいに練習してんだろ。おまえなら弾ける」


なるほど、テンポが早かったのか、とおもうがそれでいいと言われた以上、変えるわけにもいかない。

しばらくじっと歌月の足元を見つめていた徹が、ピックを持った手を弦に添わせて玲をちら、と見る。

兄や都はベースを指弾きしているが、そういえば徹はピックを使う。

玲がピックの先でピックガードをいくつか打ったとおもったら、唐突に演奏が始まった。

徹はリズムに遅れないよう必死なようだが、玲は何だか楽しそうだ。

歌声も、いつもより力みがないように聞こえる。

間近でちゃんと聞くと、歌詞は少々意味不明だが、メロディラインはおもっていたよりずっと美しい。

が、その印象も間奏のギターソロになったとたんにかき消されてしまう。

やはり、玲の声よりギターの音色の方が断然美しく、センセーショナルなことは疑いようがなかった。

というか、もういっそ、インストゥルメンタルだっていいんじゃないのか、とおもう。

そのくらい、玲のギターにはソリストとして聞かせる力がある。

歌は凡才だけど、ギターはまちがいなく天才だ。



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