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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
プロローグ:参戦事情
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『B.B.E.』からの挑戦状!

『ビートカフェ』は、若者にはロックカフェとして知られている。

しかし、元々は、団塊世代の音楽好きが生演奏を聞きにくるジャズ喫茶だったという。

そのジャズ喫茶『ビートカフェ』のステージから巣立ったのが、ロックバンド『折尾おりお音楽隊』──通称『折音おりおん』──だった。

アニメの主題歌でメジャーデビューを果たした彼らにあこがれ、『ビートカフェ』のオーディションには地元のロックバンドが多く詰めかけた。

ビートルズのコピーなどでレギュラー出演していた『銀河鷲コスモイーグル』も、そのうちのひとつである。

他のバンドと違ったのは、『銀河鷲』のメンバーと『折音』メンバーの一部に、兎ヶ丘うさぎがおか学園軽音部の出身だという共通点があったことだ。


およそ二カ月ぶりに『ビートカフェ』のこぢんまりとしたステージに立った兄は、歌月を認めてにやりと笑った。

小柄な兄は、サンバーストのジャズベースで上半身がほとんど隠れてしまう。

それでもぐいぐいとステージの前に出ては、メインを張りたがるのが『銀河鷲』時代の兄だった。

なのに、この日はスタンドマイクこそあれ、完全にバックコーラスに徹している。

ジョージ担のギタリストとリンゴ担のドラマーは以前と変わりなかったが、もはや彼らをビートルズメンバーに例えても通じそうになかった。

たったひとりのメンバーチェンジで、こうも変わるのか、とおもう。

演奏の上手さは、なにも変わらない。

ギターが一本抜けたことで、ただリズムを刻むことを良しとしない兄のベースプレイにも、むしろ自由度が増している。

けれど、変化はそれだけではなかった。


「──派手な子」


ひとりだけ若いフロントマンは、とくに派手な格好をしているわけではないのに、やたらと目を引いた。

兄を見ていたはずが、気づけば、ボーカルの一挙手一投足に視線を奪われている。

高校生、だろうか。

美少年というほど華奢ではなく、イケメンというほど男っぽくもない。

整った容姿以上に、その楽しげな雰囲気こそが、見るものを否応なく引き付けるのかもしれなかった。

ギター、と短いブレイクでもすかさず指をさし、観客の視線をギターソロに誘導する。

まるで、その場にいる全員が自分に見とれていたことを知っていたかのように……

百人に遠く満たない観客しかいないカフェのステージなどではあまりにもったいないほど、圧倒的な存在感とステージング。

歌も上手いが、すごさを感じさせないような力みのなさが、逆にすごい。

『銀河鷲』は、メンバーの個性がぶつかり合うような“聞かせる”バンドだった。

けれど、彼ら『BLUE EYES EAGLE』は、個性を主張しすぎず、それゆえひときわ高い次元で音楽としてまとまっている、とおもう。

そして──“魅せる”バンドだ。

いっしょに音楽を楽しもうと、誘いかけてくるような、心地いいリズム。

踊るようなベースラインと、ボーカルと掛け合いをしているようなギターソロ。

実際、踊るように気ままにステップを踏むボーカルを見ていると、それだけで楽しくなってくる。

やっている曲はどこの誰のものかわからないないし、英詞も意味不明なのに、ずっと聞いていたいような気にさえなった。

立て続けに三曲やって、ようやく、ドラムの音が止んだ。

形どおりのメンバー紹介をしたあと、ナツ、と名乗ったボーカルはステージから観客を見回した。


「ぼくたち『B.E.E.ビー』は、第七回から『六区バトル』に参戦しまーす」


だからよろしく、とでも言うのかとおもえば、彼はニッと不敵に笑ってみせる。


「ここ、撮影オッケーらしいので、動画撮って拡散してください。『六区』に参戦する全バンドへの挑戦状代わりに、一曲やんので!」


あっけにとられたのは、歌月だけではなかったはずだ。

ステージ上から、兄もにやにやと笑いかけてくる。

そばの客が、ごそごそとポケットを漁るのがわかった。



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