玲&徹&譲
そうして──
第七回の『六区バトル』にこつぜんと現れて三位をかっさらった『トリプルリード』は、一度きりの参戦で、すがたを消した。
そのメンバーが所属していた『LeiT-Motiv』というバンドも、『@兎ヶ丘』というバンドも、二度と『六区バトル』に参戦することはなかった。
ただし、第七回から『六区バトル』を六連覇して伝説となる『B.E.E.』が、毎回ライブで『Quartetto』を演奏しつづけた理由を語るときにだけは、必ずその名が出てきた。
────『B.E.E.』を上まわる演奏をしたバンドが、ひとつだけある。
それは、『Quartetto』をやっているときの『トリプルリード』だった、と。
* * *
「おまえ、ジンクスなんて信じてたんだな」
譲の視線に、玲がぷいっとそっぽを向いた。
「うるせえ。歌子に歌わせようとおもったから、歌えって言っただけだ」
「たしかに俺も、おまえちょっとドラム叩け、とか言われてやってんだけどさ。ほんとに、玲から勧誘したのって、他は徹だけなの?」
「の、はず。某先輩に一蹴されたのと、あとは彼女に、ちょこちょこ鍵盤とかコーラスとかやらせてたくらい。だよな?」
「しるか」
「へー。じゃあ、自分から入れてってきたやつに限って全滅なんだ。そりゃ、長勢ちゃんからは言わせたくないよなー」
笑う譲に肩を叩きまくられ、玲は街灯のない道を、徹の反対隣にまわり込んだ。
そして、ハードケースの角に足をぶつける。
「イテぇ! だーもう、捨ててけ、それ」
「おまえね。徹に持たせといて、まだ言うか。東城に貸すって言ってたろ」
「おまえがあっちの後輩まで引き取ったのには、おどろいた」
「引き取ってねーよ。ただのサイドギター見習いだろ。そいつがリズムギターの手本にCD貸すとか言うし、評価を当面保留にしとくだけだ」
「だって可哀相だろ。きっと、長勢ちゃんといっしょにやろうとおもって、ギターに戻るって言ってたのに。横からおまえにかっさらわれてさ」
「歌子があんなヘタクソ選ぶかよ。俺が、こいつを持ちだして、やっと食いついてきてんじゃねーか」
玲が、担いだギグバッグを軽く背負いなおした。
「玲。あたらしいバンド名──なら、『一九六八』ってのは?」
「なんだソレ。地味だし、還暦バンドみたいじゃねーか」
「そのギターが決め手なら、そこからぜんぶつながってるってことだろ。彼女いわくの、運命的な出会い、ってやつがな──」
運命、か……
そうつぶやいた玲のうれしそうな横顔を、ぽっかりと浮かぶ月のひかりが、浦部兄弟に目撃させた。
* * *




