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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
1:8月の荒れ模様 シーン2-兄妹-
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「バンド入って、メンバーに相手してもらえ」

「じゃなくて。あのひとといっしょにやりたい、ってひとが弟先輩しかいないのかなって、おもって」

「弟先輩?」

「浦部先輩の弟。バンド仲間ってより、相棒ってかんじなの。他に入った同学年、みんな玲先輩の実力にびびって逃げちゃったんだって」

「ギターとボーカルか?」

「ううん、ベース。でも、都先輩の方がずっと上手なんだけどね」

「いやいや。都ちゃんと、凄腕のワンマンギタリストがいっしょにやるなんて考えられねーよ。都ちゃん、ぜったい譲らないだろ?」

「うん……」

「ギターは、張り合ってくるベースは大っきらいだからな。歓迎ってやつはまずいねーよ。ギターが下手なら、黙るしかないってだけで」

「…………それで、バトルが始まっちゃったわけか」


今日、学校で勃発したソロ合戦の話をしたら、兄はひとしきり腹を抱えて笑った。


「それってさ、相手を黙らそう、ってやってんじゃないんじゃねーの?」

「──どういうこと?」

「おまえの前だから、張り合ってたんだとおもうけど」

「え。なんで?」

「だって、おまえはどっちの音もリスペクトしてんだろ」

「そりゃ、どっちもすごいもん。誰が聞いたってわかるよ」

「誰が聞いてもねー」


にやにやと笑った兄は、歌月に背を向けるとあろうことかTシャツを脱ぎだす。


「ちょっ。何で脱ぐの」

「風呂入ってくる」

「まだ話のとちゅう!」

「上がってくるまで待ってろよ」

「そしたら部屋行って、鍵かけて、ヘッドホンつけてベースの練習するんでしょ。いっつもそう! ご飯だって外で食べて来ちゃうし! いつ話せっていうのっ」


廊下に出た兄が、くしゃりと頭をかく。


「おまえ、ホント、バンド入れ。そんで、メンバーに相手してもらえ」

「やだ。あの都先輩でさえ、どっちのバンドもれないんだよ。女なんか相手にしないって言ってるみたいで感じワルイ」

れない、ねぇ。ていうか、──入ってくんなよ」


浴室のドアを開けながら、兄が歌月の額を突く。


「お兄ちゃん!」

「風呂につかったら声かけてやる。それまで廊下で待ってろ」

「もう!」


目の前で閉まったドアを蹴りつけた歌月は、壁にもたれた。

黙って頬をふくらませていると、兄のことばがよみがえってくる。


『それがおまえのやりたかったことなのか?』


玲のギターはすごいとおもう。

でも、あんなふうになりたいかと言われたら、ちがう気がした。

都のベースもすごい。

でも、あんなふうになったからといって、バンドにはいれないのではまるで無意味だ。

鷲尾のように歌えたら──きっと、バンドをやるのも楽しいだろう。

でも、曲やバックの音をえり好みして、気に入らないものをまるっきり評価しないような人間は、理解できない。

すごい人間といっしょにやるから、よりすごいものが生まれるのではないのか。

自分が鷲尾だったら、玲や都の音を放っておいたりは、ぜったいにしない。

彼らの音は、そばにあって無視できるようなものではなかった。

強烈な自我とプライドを、持っている。

鷲尾の歌が、そうであるのと、きっとなにも変わらない。

それなのに──


「誰が聞いても、っておまえ言ったけどさー」


脱衣所に入ってからぶちぶちとそんなことをぼやいた歌月に、笑い混じりに兄が返す。


「軽音って、聞かせたいやつ、自己主張したいやつの集まりだろ。他人の音なんか、おまえがおもうほど聞いちゃいねーとおもうぞ」

「え? だって、そばで鳴ってるんだよ?」

「おまえ、興味ない授業、頭に入ってる? 右から左に抜けてくだろ?」

「それとこれとは別でしょっ」

「音楽になってない音だって右から左だよな? 聞こえてたとしても、聴かなきゃ耳に入らないものはいっぱいあるんだよ」

「……そっかな」

「で、おまえはちゃんと音を聴いてる。聞かせたいやつはな、聴く耳持ってるやつに、案外敏感なんだ」



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