『トリプルリード』
「正確には、徹のいないステージに引っぱり出された居心地の悪さやフラストレーション……だとおもう」
「…………」
部分的にだが、唄っているというより、吠えているようにも聞こえる。
『LeiT-Motiv』でのプレイもかなり奔放だが、暴走はしていかないのが玲のギターだとおもっていた。
けれど今は、暴走しそうな危うさをひしひしと感じる。
「──魁はリベンジしろ、って言ってたけど。あいつは、もう引っ張り出せないかもね」
そうかもしれない。
コーラスにまわった鷲尾のボーカルに、これでもかと吠えつくギターのサウンド。
こんな演奏は、きっともう、二度と聞けない──
歌月は、鷲尾のパーカーをぎゅっと握りしめた。
……でも、ロックだ。
たった一度きりでも、ロックなのだから、仕方がない。
本来は玲のギターで埋まるはずだった音の空白地帯を、都のベースの音が踊りのステップを踏むように埋めつくしていく。
玲が眉をひそめるはずのリードベーススタイルも、このときばかりはみごとにハマっていた。
終いには、鷲尾がコーラス用の歌詞とシャウトで、主メロに割り込んできて……
そうだ、こんなのが、見たかった。
この三人なら、きっとこんなことができるとおもっていた。
すごい──
どうだ、すごいだろう──?
これを、歌月は『六区バトル』のステージで見せたかったのだ。
これこそが歌月が知る、先輩たちの実力。
ロックの持つパワーを、ライブステージで描き出せる、兎ヶ丘学園軽音部が誇る、精鋭三人────!
見よ。
これこそが、まさに──『トリプルリード』の演奏!
「なるほど、『トリプルリード』だな……」
蒼太の声が聞こえた。
「そう、おもってるね、みんな」
歌月はうなずいた。
当初は、この三つ巴さえ見られれば、それでいいとおもっていたはずなのに。
今、あそこにいられない自分が、くやしい。
くやしいと、おもってしまう。
以前なら心から誇れたはずのものが、今は胸を張って誇れない。
憧れるだけでは、嫌だ。
あんなふうに、ハプニングをものともしない実力を備え、そのしゅんかんにしか生まれ得ないものを生み出せる即興性を持っている──そんなロック魂とプライドの持ち主になりたい。
見ているだけじゃ、おもしろくても、胸はすかない。
胸がすくライブを、自分もやりたい。
それこそが、“ロック”のはず。
歌月にとっては、それが、ロックをやる理由────
あの日、『B.E.E.』のライブを見ておぼえた情動の、それこそが正体だ、と──今、気づく。
何が羨ましくて、何が欲しくて、何がやりたいのか……ようやくわかった。
今なら、兄の問いにだって答えられる。
わかんない、なんて言っていた自分が、自分でわらえた。
でも、今はわかる──
それでよかった。
わかるようになったのだから、それでいい。
このくやしさも、焦がれるような憧憬も、もっと成長するための力に、きっと変えてみせる。
変えてみせるから、せんぱい────!
歌月は、音が消えるそのしゅんかんまで、ステージを見つめた。
二度と、うつむくことはなく、最後まで。




