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8/8 -兎ヶ丘学園軽音部ー  作者: 十七夜
4:六区バトル シーン1―決戦ライブ―
100/118

ブルー

「……くやしい」

「よしよし。泣かないで」

「ぐすっ。だって、ぐやしい」

「あー、ひどい声だね。しゃべらなくていいよ。それより、これで涙拭きな」


うつむいた顔に、ぼふっと布地が当たる。

タオル……ではない気がしたが、歌月は顔をうずめた。

涙を吸い込ませ、頬をぬぐって、ようやく視界が戻ってくる。


「──これ」


どこかで見たブルーだ、と歌月はぼんやりおもう。

けっこう最近ではなかったか。

記憶をたどって、はっ、と蒼太の顔を仰ぐ。


「部長、これって」

「そう。魁のパーカー」

「!────」


すでに自分の涙でぐちゃぐちゃで、部分的に色が濃くなっているが、たしかに鷲尾が着ていたパーカーの色だ。

広げてみれば、ちゃんとファスナーやフードがついている。

歌月はあぜんとした。


「気づかなかった? 一曲目の終わりに脱いで、こっちに放ったの」

「ちょっ……な──!」


何てもので涙を拭かせるのだ!

かすれた声では抗議にならないので、歌月はせめて蒼太をにらんだ。

おかげで、涙など引っ込んでしまったではないか。


「年下の女の子相手に本気を出して、つぶして泣かせちゃった男には、このくらい当然のむくいだよ」


歌月は、あと四、五分でどうにか乾くようにとパーカーを振ってみた。

それを見て、おかしそうに蒼太が笑う。

どこが笑い事なのか、わからない。


「ねえ、妹ちゃん。──ステージの魁は、かっこいいだろ?」

「……は、い」

「隣に立ちたいとおもうきもちは、おれもよくわかるんだけど……あれは、さすがにマズかったね」


あれ、とは何だろう。

歌月の視線に、蒼太はくす、と笑った。


「そうか。気づいてないか。君はね、不用意に魁の間合いに踏み込んじゃったんだよ。魁が笑ってたの、気づかなかった?」

「わらっ……?」


そうだ、笑っていた。

あれは、一曲目のAメロの、まだ出だしのころ──


「魁は、ステージに慣れてるから、マイクの位置はちゃんと加減して歌ってたけどね。あんなに近づいたら、魁の声しか聞こえなくなっちゃったんじゃない?」


こっくりと歌月はうなずいた。

笑ってないでそう言ってくれればいいのに、とおもう。

心を読んだように、蒼太は苦笑した。


「それだけじゃないよ。君、うっかりバスドラの前に立っちゃったでしょ。だから、自分の歌もよく聞こえなかったんだよね?」

「あ……」

「魁は気づいてたから、とちゅうで立ち位置を変えてあげてたけど──二番からちゃんと声が聞こえるなーとか、おもわなかった?」

「…………おもい、ました」



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