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4話 「夢と決意」

俺は風呂でサラッと身体を洗い、湯船で身体を温め、リビングへと戻った。


「あっ、ルージュ! おかえりなさい!」


「えっ、あ、おう」


リビングに入った途端、満面の笑みでセレナが俺の元に来た。


こんな笑顔も出来るのか…と思ったが、きっとこれがセレナの本来の姿なんだろう。


「さて、ルージュも来たことだし、ご飯にしましょうか」


母がそう言い、 皆の元へ料理を運ぶ。


突然人数が1人増えたので、俺とフローラとディノスから量が少し減らされる事になったが、誰もそんな事は気にしていなかった。


「さぁ、セレナちゃん、遠慮せずに沢山食べてね!」


「はい!」


「んじゃ、いただきます!」


「「「いただきます!」」」


ディノスの掛け声に皆も同じくいただきますと言い、料理を食べ始める。


…うん、美味い。


「どうセレナちゃん、美味しい?」


「はい! とても美味しいです!」


「そう、良かった。 あ、そうだわ! ルージュ、今日セレナちゃんウチに泊まる事になったから」


「…え!?」


「だってもう外真っ暗だし、危ないでしょ?」


「そ、それは良いんだけど、セレナの両親とかに連絡しなくていいの?」


この世界にはもちろん電話なんてないはずだ。


「あぁ、それなら父さんに任せとけ、魔法に ”テレパシー”って魔法があってな、遠くの人と会話することができる。上級魔法だがな 」


「へぇ〜」


そんな便利な魔法もあるのか…


「それで、セレナちゃんにはルージュの部屋に寝てもらう事になったからね? 部屋は余ってるんだけど、まだ引っ越しの荷物が片付いてないのよ」


「「え? えぇ!?」」


リビングに俺とセレナの声が響き渡る、どうやらセレナも今知ったらしい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


晩飯を食べ終え、セレナは俺の部屋に来た。


「ここがルージュの部屋?」


「あぁ、あんまり面白いものは無いけどな」


「へぇ〜」


セレナは俺の部屋を見回している。


俺はなんか会話をしなければと思い


「そうだ、セレナってなんか将来の夢とかあるのか?」


「夢? 夢かぁ…」


「あ、ないなら別に無理に考えなくても良いぞ?」


「うぅん、違うよ、夢ならあるの。 ずっと考えてた事が…笑わない?」


「笑わないよ」


俺がそう言うとセレナは深呼吸をして


「将来、すごく強い魔法使い…”白魔女”になって皆を助けて、エルフは悪い種族じゃないんだって証明するの」


そう言い切ったセレナの目は本気だった。


白魔女……本で読み、母に話しを聞いたが、そう簡単になれるものでは決してないはずだ。


「そのためにね? 私は12歳になったら剣魔学園に行くの、お母さんとお父さんも賛成してくれたし…そこで魔術を学んで、強くなりたい…んーん、強くなるの」


「…そうか」


剣魔学園……俺が行くか行かないか迷っている学校だ。


「ルージュは、今剣魔学園に行くか行かないかで悩んでるんでしょ?」


「え? なんで知ってるんだ?」


「ルージュがお風呂に入ってる時に、ルージュのお父さんから聞いたよ?」


「そうか…正直な、どうすればいいか分からないんだ、俺はセレナみたいな夢がない、剣魔学園に来る人達は皆夢を持ってるはずだ。 そんな所に…俺なんかが行っていいのかなって…」


セレナの夢を聞いて、半端な気持ちで行く場所ではないと実感した。


俺には強くなって何をしたい、剣聖になって何をしたいっていう夢がない。


もちろんやるべき事は分かっている。

龍暦137年…つまり今から7年後にやってくる転移者達と共に協力し、天道を倒す。


その為にはもちろん力がいる。 強くなるには学校へ通うのが1番だ。

そんなのは分かってる。


…だけど、怖いんだ。


「そっか…私は…出来ればルージュと一緒に剣魔学園に入学したいなって思ってるよ?」


「…え」


「今はまだルージュには夢はないかもしれない、でも、剣魔学園で学んでる内に夢が出来るかもしれないじゃない?」


「………」


「私は今日ルージュに助けてもらった時、この人はなんて強い人なんだろう…って思ったの」


「あれは…ただほっとけなかっただけだ」


「その”ほっとけない”って思えるのが、凄いことなんだよ? 私ね、ルージュを強い人だなって思うのと同時に、優しい人だな…とも思ったの」


「優しい?」


「うん、ルージュは私を助けてくれて…私の初めての友達になってくれた、それに私がどれだけ救われたか…

ただ強いだけの人なら沢山いると思う、だけどね、強くて優しい人はあまりいないんだよ?」


「な、なんで7歳のセレナにそんな事分かるんだよ?」


7年しか生きてないはずなのに、なぜそんな事が分かるのだろうか、それを質問すると、セレナは真剣な表情のまま答えた。


「…お母さんがね、いろいろ教えてくれたの、昔お母さんも私と同じようにイジメられていたらしいの。

それは大人になっても変わらなくて、魔法で傷つけられる事は沢山あったんだって」


「……」


俺は何も言わずに静かに聞いている。


「でもね? ある日同じようにイジメられていたら、1人の男の人が助けてくれたんだって、その人はエルフって知っても嫌な顔をせずに接してくれたんだって。

その人が、今の私のお父さんなの」


「……え? って事はセレナのお父さんは…」


「うん、エルフじゃないよ、普通の人間。 そして、人間とエルフの間に産まれた私は…ハーフエルフっていうの」


「ハーフエルフ…?」


「うん、ハーフエルフは珍しいらしくて、普通のエルフよりも魔力が多いんだって。

だからいろいろな人から化け物呼ばわりされるの。 その事をお母さんは毎晩私に謝りながら話してくれた」


「恨んだりしないのか?」


自分がもしセレナの立場だったらどうするだろうか……それは考えもつかない


「そんな事はしないよ、4歳ぐらいの時は、いつもイジメられるのが嫌で泣いてたし、エルフなんて嫌だ。 って思ってた。

でもね、最近ではこう思うの、人間とエルフは、仲良く暮らせるはずなんだって」


「仲良く…」


「うん、ハーフエルフの私がいるのが、その証拠。 今はただ人間が一方的な考えをエルフに持ってるだけなの。 「エルフは怖い」とか「エルフは化け物だ」とかね?

だから、エルフが怖くないんだって事を、私が証明するの。

ハーフエルフの…人間とエルフの子供の私が」


「……凄いな…」


思わずそんな言葉が漏れてしまう、 自分が7歳の時、こんな事を考えただろうか?


「セレナは凄い。…俺なんか全然ダメだな」


「凄くないよ…ルージュはね、もっと自分に自信を持った方がいいよ?」


「自信?」


「うん、ルージュは絶対に強くなれる。強くなって、もっと沢山の人を助けて…笑顔にする事が出来るはずなの。

今日私にしてくれた事を、他の人にもしてあげてほしいの」


「俺が強く…」


「私はね? ルージュは…剣聖になれると思ってるよ?」


剣聖と白魔女……皆が憧れ、そう呼ばれる事を夢見る存在。


目の前に、白魔女を目指す少女がいる。


その少女は、俺は剣聖になれると…そう言ってくれた。

背中を押してくれた。


そんな事を言われれば、もう…目指すしかないじゃないか。


俺は今まで、ずっと逃げて来た。

逃げて逃げて、逃げ続けた自分に後悔して、でも自分を変える勇気なんか出なかった。


怖かったんだ。勇気をだして、それが失敗した時の事を考えると、足が竦んだ。


でも、今は違う。

今の俺は、千夜佑護じゃない。

ディノスとフローラの子供で、セレナの友達のルージュ・アルカディアだ。


「…剣聖か。 目指してみようかな」


良い機会だ。 勇気を出してみよう。


「…っ!じ、じゃあ!」


「あぁ、俺も、剣魔学園に行くよ。

俺は”剣聖”を、セレナは”白魔女”を目指して頑張ろう」


「うん! 私の夢は…白魔女になって、エルフが悪い種族じゃないって証明する事!」


「俺の夢は…剣聖になって、皆を守って笑顔にする事!」


俺とセレナはお互いに夢を言い合い、ハイタッチをする。


「じゃあ、早速父さんと母さんに言わなきゃな」


「うん、いってらっしゃい!」


俺は立ち上がり、部屋を出ようとする…と、俺の部屋の扉が突然開いた。


入ってきたのは、号泣した父さんと母さんだ。


2人は俺を抱きしめ。


「おおおぉぉ!! ルージュ! ルージューー!父さんは嬉しいぞ!!」


「2人共立派よ!」


「え…ちょ! 父さん!? 母さん!?」


「セレナちゃんもこっちにおいで…!」


「えっ…えぇと…」


セレナはオドオドしながら近寄ってくる、そのセレナの手をフローラが掴み、強引に引き寄せた。


「きゃっ!?」


「セレナちゃん! セレナちゃんの夢は立派よ! 私感動しちゃったわ…!」


フローラはセレナと抱きしめ、ディノスは俺を抱きしめ続けた。


それは10分くらい続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「父さん、母さん、落ち着いた?」


「あぁ、まだ感動したままだがな」


「ははは……」


セレナも苦笑いしている。


俺は一応言っておこうと思い、正座をして両親の方を向く。


「聞いてたと思うけど、一応言うね。

父さん、母さん、俺は剣魔学園に行って、強くなりたい。 だから、俺に剣術と魔術を教えてください!」


俺は丁寧な口調で頭を下げた。


すると両親は笑って


「あぁもちろんだ!!ルージュだけじゃなく、セレナちゃんにも教えてやろう!!

2人にはこの俺、"剣豪"と呼ばれたディノス・アルカディアが責任を持って剣術を教えよう!」


「魔法はこの私、フローラ・アルカディアが責任を持って魔法を教えるわ!」


「え…私もいいんですか!?」


「当たり前よ! 遠慮なんてしなくていいのよ!」


「あ、ありがとうございます!」


「俺からも、ありがとうございます!」


俺とセレナは両親に頭を下げる。


「はっはっは! では早速明日から始めるぞ! 厳しくいくからな!」


「覚悟するのよ?」


「「はい!」」


明日から、剣術と魔術の修行が始まる。


絶対に強くなってやる。 と俺は心に誓った。

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