3話 「初めての友達」
「……え?」
「だから、俺と、友達になってくれない? 俺さ、今まで友達出来たことないんだよ」
俺の問いかけに女の子は何も言わずにただ口を開けてつったっている。
俺は女の子の前で手を振り
「おーい、聞こえてる?」
「……はっ! え…え? えっと…友達?」
めっちゃパニックになっている。
「そうだよ、友達」
「わ、私で…いいの? 私、エルフだよ?」
「だから、俺はエルフだとか気にしないって言っただろ? 俺は君と友達になりたいの!」
俺がそう言うと女の子はまた泣き出した。
「えぇっ!?ま、また泣くのか!?」
「ご、ごめっ…なさい…私…友達ずっと…欲しかったから……!」
この子は本当に俺と同じだ、俺もずっと友達が欲しかった。
だが、作ろうと頑張ってもイジメられ、悪口を言われてきた。
この子はまだ子供だが、これから成長していっても”エルフ”というだけでイジメられる事は変わらないだろう。
このままだと下手したら俺よりも酷い仕打ちを受けるかもしれないし、この子はずっとそれに耐えながら生きていく事になるだろう。
子供のイジメは陰湿だ、被害者が大人に頼ってその大人が相手に怒ってくれても、イジメた子はその時は謝るが、少しするとまたイジメが始まる、しかも今度はさらにタチの悪いイジメになる。
だからイジメられてる子が頼るべきなのは大人ではなく、同年代の友達だ。
だが俺にはそんな友達は居なかった、そんな俺が最終的に行き着いたのは、諦めること。
俺は逃げた、頑張ることを諦めたんだ。
だが目の前のこの子は違う、今この子にはこの子の気持ちを分かってやれる存在がいる。
俺がこの子を守ればいい、この子にはあんな悲しい思いはして欲しくない。
俺は女の子の頭を撫でた。
「えっ…!? な…何…?」
「大丈夫だ、これからはもう寂しい思いはしなくていいんだ。 もう俺たちは友達なんだから、大変な時は頼ってくれていい。
友達はそういうものだ」
「うっ…うん…」
俺は女の子の頭を撫で続けた。
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「落ち着いたか? 」
「うん…ありがとう」
「気にすんな。 あっ、そういえばまだお互い自己紹介してなかったな」
「あっ…本当だ」
「えっと、俺はルージュ。ルージュ・アルカディアだ」
「わ、私は…セレナ。セレナ・エゼルミア…です…」
「セレナか、よろしくな!」
「う、うん…よろしくね、ル、ルージュ…」
「おう。 んじゃセレナ、今更何だけどさ…」
「ん…? どうしたの?」
「あの…顔にいっぱい泥ついてるから、川で洗った方がいいぞ」
「…っ!!」
セレナは川へと走っていき、川の水で顔を洗い始めた。
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「どう? もう泥ついてない?」
「おう、もう大丈夫だぞ」
顔の泥は落ちたが、まだ服は汚れたままだ、まぁ俺の服もだが。
「なぁセレナ、もし良かったら今から俺の家来るか? 服も洗濯できるし、風呂とか入らなきゃマズいだろ? 」
「えっ、でも…いいの? 」
「おう! あ、でもセレナの両親が心配するか?」
「…多分大丈夫だと思う、お父さんもお母さんも森の警備で帰ってくるのが遅いから」
なるほど、だからセレナは昼間外に出ていたのか。
「じゃあ早速俺の家に行くか」
「う、うん! 」
「あっ…そういえば!」
俺はここに戻ってきた理由を忘れていた、最初に俺が座っていた所を見ると…
「あったあった!」
麦わら帽子はまだそこに落ちていた。
「はー、風に飛ばされてなくて良かったー」
「あ、その麦わら帽子ってルージュのだったんだ、今暑いもんね」
俺は麦わら帽子をかぶることはせずに、セレナにかぶらせた。
「え? 何?」
「日焼けしたくないだろ? それかぶってろよ」
俺たちはそのまま家へ向かって歩き始めた。
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俺は家までの道を完璧に覚えていたので、迷ったりせずに家の前まで来ることが出来た。
「さ、ついたぞ。 ここが俺の家だ」
「ここが…ルージュの…」
俺は家の扉を開け、家に入る。
「ただいまー」
「お、お邪魔し…ます」
俺たちがそう言うと、リビングの方から母が来た。
「おかえりルージュ、お散歩はたのしかっ…た?」
母はセレナを見て固まっていた。
「あ、紹介するよ母さん、この子はセレナ・エゼルミア、 俺の友達だよ」
「えっと…その子…」
「うん、エルフだよ」
まさかフローラもエルフの事を嫌っているのだろうか…?
そう思っていたら、突然フローラは俺とセレナを抱きしめた。
「え、ちょ…母さん!?」
「ルージュ、母さん嬉しいわ! ルージュが優しい子で本当に嬉しい…!
セレナちゃんも、ルージュとお友達になってくれてありがとうね?」
なんだ、いきなりどうしたのだろうか。
フローラは確実にセレナがエルフだという事を知っているはずだ
セレナも状況が分からず「え? …え…?」と戸惑っている。
「実は母さんね? 昨日セレナちゃんのお母さん…セルミナさんとお話したの。 引っ越しの挨拶の時にね! そして今度お互いの子供を合わせましょうって話になったのよ」
「え、そうなの?」
「えぇ、エルフってだけで差別されるのは母さん許せなくてね、セレナちゃんが村でイジメられてるって聞いて、ルージュに友達になってもらおうと思ったのよ」
「なるほど…」
「でも母さんが合わせる前にルージュがセレナちゃんと友達になってくれて母さん本当に嬉しいわ」
そう言って母は俺とセレナの頭を撫でてくる。
そして母はやっと俺たちの姿に気づき
「あら!?あなたたちその汚れどうしたの!?」
「その事は俺が説明するから、まずはセレナを風呂に入れてあげてくれない?」
「え…? 私が先に入るの?」
「当たり前だろ。 ゆっくり入ってこいよ」
「分かったわ、じゃあセレナちゃん、お風呂に案内するからついてきて? ルージュは着替え持ってくるからそこにいてね」
「はーい」
母がセレナを風呂に連れて行き、俺は玄関に立っていた。
しばらくすると奥からディノスが俺の服を持ってやってきた。
「おかえりルージュ、母さんから聞いたぞ?
エゼルミアさんの所の娘さんと友達になったんだって?」
そう言いながら俺に服を渡してくる、俺は新しい服に着替えながら
「うん、初めて友達出来たよ」
「はははっ、そうかそうか!」
ディノスは俺の頭をワシャワシャと乱暴に撫でてくる。
「よし! 着替え終わったな? じゃあ今日何があったのか、母さんと父さんに聞かせてくれ」
「うん」
俺たちがリビングに行くと、母が笑顔で待っていた。
「セレナちゃんはお風呂に入れたわ、さて…なんでそんなに泥だらけなの?」
リビングが真面目な雰囲気になる、フローラとディノスは静かに俺が話すのを待っている。
「…この村の川の近くに座って休んでたんだ、そしたら同い年くらいの男3人と、フードを被ってたセレナが来たんだ」
俺は先程の事を話し始めた。
「男3人は最初俺にこの場所から出て行けって言ったんだ。
俺は特にする事もなかったからその場所から出て、家に帰ろうと思った。
でも帰る途中に麦わら帽子が無いのに気づいて、さっきの場所に戻ったんだ、そしたら…」
「そしたら?」
「男3人がセレナをイジメてたんだ、そこで初めてセレナがエルフって事も、エルフが嫌われてるって事も知ったんだ」
思い出しただけでも腹立たしい。もっと殴っておけばよかったな。
「そして俺は男3人を殴って、セレナを助けて、友達になった。 これがさっきの事だよ」
俺がそう言うとフローラとディノスは目を見開いた。
「え…? 殴ったって…ルージュが…?」
「ほ、本当か?」
「本当だよ、あいつらの顔に砂かけて、砂が目に入って痛がってる間に殴った」
我ながらあの作戦は良かったと思う。
するとディノスが突然俺の頭を撫でてきた。
「そうかそうか…!ルージュは強いなぁ」
「…強くないよ。 砂かけて…卑怯な手使ったし」
「でも、今のルージュに出来る精一杯の力で戦ったんだろう?十分立派だ」
そう言って、ディノスは優しく俺の頭を撫で続けた。
「……あ、あの…」
「ん?」
声がした方を振り返ると、リビングに入りづらそうにオロオロしているセレナがいた。
「お、セレナ上がったのか」
「うん…えっと…服、お借りしました」
セレナがきている服は明らかに男用だ、どうやら俺の服を着たようだ。
「あ、セレナちゃんおかえりなさい! じゃあ次はルージュ、お風呂に入ってきちゃいなさい?」
「はーい」
俺は風呂へと向かった。
俺の顔は今多分笑顔になっているだろう。
最初はもしも両親がセレナを拒絶したらどうしようとか考えていたが、そんな事はなくて安心したのだ。
リビングから聞こえたセレナの笑い声を聞き、優しい両親で良かったと、心からそう思った。