23話「ルージュVSザイル」
「まずは……黒霧」
黒霧を発生させ、ここら一帯の視界を悪くする。
「っ! まずは姿を隠すのか…!」
ザイルが辺りをキョロキョロしだす。
そのタイミングで俺は木に登り、次の手を考える。
さて…どうするか。
やみくもに接近しても避けられるのは分かりきってる。
ならやはり魔法で決めるしかないだろう。
だからと言って、 剣を使わないわけじゃないがな。
「水球…」
俺は小声で詠唱し、水球を地面にぶつける。
バシャッという破裂音がなり、ザイルが音のした方を向く。
「なるほど…撹乱か」
……どうやらバレバレのようだ。
だがザイルは今俺に背を向けている。
俺の場所はバレていない。
「隕石雨!!」
俺は木の上から、隕石雨を撃つ。
特大の炎の塊が5個、ザイルに向かっている。
「っ!?」
ザイルは驚きはしたが、すぐさま隕石雨を回避する。
「次々行くぞ、光矢!」
光矢を撃った後、俺はすぐさま今いる木から別の木へ移る。
これはザイルに場所を気づかれないようにするためだ。
「くっ…光魔法か!」
ザイルは当然のように避け、ザイルのいた場所に光矢が数本刺さる。
「炎斬!」
炎斬を放つが、これも避けられる。
そしてまた木から別の木へ移る。
「水領域!」
ザイルのいる場所一帯を水浸しにする。
アリスの中級魔法、聖水領域は流石に出来ないが、水領域は初級魔法だ、俺にも出来る。
そして剣に雷を纏わせる。
「水領域……これで一体何をするつもりだい…?」
「よし…くらえ…! 俺の得意戦術!」
俺は雷を纏った剣をザイルに向かって投げた。
剣はまっすぐザイルの方に向かっていく。
「っ!」
だが当たる寸前で気づかれ、回避される。
相変わらずすげぇ回避力だな…だが
「剣を投げるなんて…どういうつもり……っ!!?」
よし、計算通りだ。
雷を纏った剣は水浸しになった地面に落ち、電気が水を通ってザイルに流れる。
ザイルは感電し、その場に膝をつく。
「ぐ…!」
ザイルが膝をついてる、今がチャンスだ。
「石連弾!」
俺の手から石が大量にザイルに放たれる。
「っ! …土壁!!」
だがザイルはすぐに立ち上がり、土壁で石連弾を全て防御。
「マジかよ…!」
そして、黒霧が完全に消える。
「お、黒霧…消えたみたいだね。 ルージュ君」
ザイルが俺を見て言う。
ザイルは勝ち誇った顔をしている。
「できれば石連弾でやられてほしかったんですがね」
「初級魔法でやられる訳にはいかないよ」
「……そうですか」
なら次は…初めて使う魔法だ。
挑戦した事はないので出来るかは分からないが…やるしかない。
セレナがやっていた事を思い出す。
たしか……水と風を合わせるんだったか…
「もう降参かい?」
右手に水を…左手に風を…そして2つの魔法を…"合わせる"。
「そんなわけないでしょう。 氷結弾!」
俺の両手から氷の弾丸が発射される。
氷魔法はセレナの魔法しか見たことがないから、今は氷結弾しかつかえない。
「こ、氷魔法までっ…!」
ザイルはよっぽど焦ったのか、横に転がって避ける。
そして、転がるという事は、隙だらけになる。
勿論、俺はその隙を見逃すわけがないし、隙が出来るのをずっと待っていた。
「大氷壁!!!!」
俺は大量の魔力を消費し、ザイルの下半身とザイルの周りの森を凍らせた。
大氷壁の高さは森の木よりも高く、自分でもこんなになるなんて思ってなかった。
「ふぅー…」
大氷壁のせいでここら辺の気温は下がり、口からは白い息が出始める。
ザイルは下半身と両腕を凍らせているため、身動きがとれないでいる。
「…驚いたよ、複合魔法まで使えるなんてね…」
「氷魔法は今日初めて使ったんですけどね」
「え!? 本当かい!?」
「はい、俺もこんなのが出せるとは思いませんでしたよ」
大氷壁を見ながら言う。
……これ、当分溶けないだろうな。
「…君は強いね」
「…いえ、まだまだですよ…今回みたいに、黒霧や卑怯な手を使わないと勝てないし」
「いいや、それも立派な戦術だ、誰も文句は言わない」
「…ありがとうございます」
こんな卑怯な勝ち方は認めん!! とか言われるかと思ったが、逆に褒めてくれた。
「この勝負、俺の勝ちでいいですか?
負けを認めてくれるんなら氷溶かしますけど」
「うん、僕の負けでいいよ。 おめでとう」
「ありがとうございます」
負けを認めたので、熱手でザイルの周りの氷を溶かす。
流石に大氷壁全てを溶かす事は出来ない。
「じゃあ、俺は行きますね」
「うん。試験合格出来るといいね」
「はい。合格したら魔法を教えてください」
「僕で良ければ、喜んで教えよう」
「楽しみにしてますね」
俺は軽くザイルに頭を下げ、校舎のある方角に歩き出した。
ザイルとの戦闘が予想以上に長引いた、急がなければ。




