22話 「試験開始、教師との戦闘」
眩しい光に包まれ、自分は転移したのだと分かる。
そして徐々に眩しさが消え、目を開けると……
「ふむ……」
そこは木に囲まれた場所だった。
っていうかここ森だな。
あれ? 学園内にテレポートするはずだよな? この学園は森があるのか?
「さて……まずは方向の確認だな」
とりあえず剣を抜き、常に警戒しながら歩く。
セレナとアリスに「試験会場で会おう」なんて言ったのに、言った本人が脱落したら笑えない。
「それにしても…俺は運が悪いな…」
よりによって方向が分かりにくい森にテレポートさせられるなんて……
「…とりあえず木に登ってみるか」
俺は近くにあった木を登り、木の上から周りを見る。
「んー…あ、あった。 あっちに校舎があるんだな」
右側に校舎を発見、その方向を忘れない内に地面に降り、歩き出す。
方向が分かればこっちのもんだ、後は教師に見つからないように急ぐだけ……
「まずは冷静に方向を確認…なかなか良いじゃないか」
「…マジかよ…さっそくフラグ回収ってやつか」
背後から声を掛けられる。
降り向くと、そこにはローブを着てメガネを掛けた大人が立っていた。
……早速教師と遭遇か…
「あの…もしかしなくても…この学園の先生…ですよね?」
「うん、そうだよ。 僕はこの学園で魔法を教えている。 ザイルだ、無事入学出来たらよろしくね」
「えぇ、入学したらよろしくお願いします」
ザイル先生、見た目通り魔導士か。
厄介だな…俺は魔導士と戦闘なんてしたことないぞ…
俺が本気で戦闘した事あるのは、ディノスとオルガだけだ。
2人共主に剣を使ってきたので、魔法を主に使う奴とは初めてだ。
「念のため、君の名前を聞いておこうか」
「…ルージュ・アルカディアといいます」
「ルージュ君だね、見た所、君は剣術が得意なのかな?」
「いえ、俺は……あっ…」
良い事を思いついたぞ……
「はい、俺は剣術しか使えません。 魔法は全然出来なくて……入学したら魔法を学ぼうと思っています」
嘘だ、俺は剣術が苦手で、どちらかと言えば魔法の方が得意だ。
「なるほど、勉強熱心なのは良い事だね」
よし、信じたな。
なら、直ぐに終わらせよう。
「さて、そろそろ始めようか。 学園長から聞いてるだろ?」
「えぇ、やっぱり戦闘…しますよね?」
「うん、僕も心苦しいけど…仕方がない事だ」
「ですよね。 合格しなきゃいけないので、本気で行きますね」
俺は剣を構え、姿勢を低くする。
ザイルは、杖を構える。
先に動いたのはザイルだ。
「雷光!」
「おぉっ!? 早速中級魔法かよ…!」
俺はザイルの雷光を横に飛んでかわす、凄まじい速さの電撃だが、避けられない速さじゃない。
「泥地面!」
「なっ…!?」
急に、俺の足元の地面が泥に変わる。
その泥に足を取られ、俺はバランスを崩す。
「残念だけど、君はここでリタイアだね。炎連弾!!」
1つ1つが巨大な炎の球が、大量に俺に向かって飛ばされる。
………え、流石にヤバくね?
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ーーザイル視点ーー
轟音が鳴り響き、炎連弾が爆発する。
さっきまでルージュ君がいた辺りに黒煙が出来ており、ルージュ君の姿は確認できない。
「悪いね、ルージュ君。 半端な実力の子を入学させるわけにはいかないんだ」
結局、ルージュ君は何も出来ずに終わってしまったな…
まぁ中級魔法を3発も撃てば当然かな…、教師として、一撃くらいはルージュ君の技を見てみても良かったかも知れない。
「はぁ…こういうのを、大人げないって言うんだろうなぁ……」
まぁもう気絶しちゃったし、しょうがないか、次に会った子は、ちゃんと技を見てあげよう。
「さて、ルージュ君を拘束しないと」
僕はルージュ君を拘束するために、黒煙のある場所に歩き始める。
「突風」
僕は風を起こして黒煙を飛ばす。
きっとルージュ君は気絶しているだろう、後は拘束して終わりだ。
「……あれ?」
だがそこには、ルージュ君の姿はなかった。
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ーールージュ視点ーー
あ、危ねええぇぇ……!
何だよ最後の魔法! あんなの子供に撃つ威力じゃないだろ…!
なにあれ、全部中級魔法じゃん、あんな事されたら俺、手も足も出ないじゃん。
「黒煙が出来たおかげで何とか隠れられたけど…どうするか……」
俺は炎連弾が当たる直前、魔力を沢山込めて土魔法で土壁を作った。
炎連弾が土壁にあたり、爆発した瞬間に俺は近くの木の裏に隠れた。
そして現在に至る。
「やっぱり…甘くないんだな」
嘘をついて意表をつけば、倒せると思っていた。
だが、そんなのは通用しないのが分かった。
向こうは俺なんかより何倍も強い。
なら、最初から全力で戦うしかない。
俺の中には”逃げる”という選択肢は無かった。
理由はないが、ここで逃げたらダメな気がした。
「……あれ?」
その頃、ザイルが黒煙を風で消し、俺の姿がない事に驚いていた。
……今だ。
「炎斬!」
俺は木の裏から飛び出し、まだ驚いているザイルに炎斬を撃つ。
やっと技を撃てた。
「なっ…! 水壁!」
だがザイルは驚きながらも水壁で俺の炎斬を消す。
マジかよ…初めて見る技のはずなのにすぐ対応出来んのか。
「ルージュ君、何だい今の技は…!」
「雷球!」
ザイルの問いかけを無視し、雷球を放つ。
会話をしてる暇はない。
休むな、常に魔法を撃ち続けろ、相手を休ませるな。
それだけを考え、雷球を撃ちまくる。
だが、ザイルはそれを全部避ける。
「…っていうか君! 魔法使えるんじゃないか! 嘘をついてたんだね!」
「突風!」
知るか、嘘をつこうが勝てばいいんだ。
地面に突風を撃ち、砂埃を発生させ、ザイルから俺を見えなくする。
そして剣に雷を纏わせて一気にザイルとの距離を詰め、ザイルに雷を纏った剣を振るう。
「雷斬!!」
「くっ…!」
雷の飛ぶ斬撃をザイルに躱されるが、俺はすかさずもう一度雷を剣に纏わせ、ザイルに剣を振り下ろす。
「おらぁっ!」
全力で、斬りあげや、水平斬りをする。
しかも雷を纏っているので、一発当たれば身体が痺れるはず。
なのに、攻撃が当たらないのだ。
ザイルは俺の剣撃を全て躱している。
「ちっ…! このっ!」
「だんだん、動きが単調になってきたよ」
それまでは避けるのに必死だったザイルが、涼しい顔で避けるようになった。
そして、余裕になったのか、ザイルは避けた後に俺の腹を思い切り蹴った。
「ぐっ!」
そのまま俺は地面を転がり、ザイルは「ふぅ……」と溜息をつく。
「君、イライラしてるせいで動きがバレバレだよ。 非常に勿体ない」
「……」
「1つアドバイスをしてあげよう。 自分が冷静じゃないと気づいた時は、まずは深呼吸だ」
俺は、イライラして熱くなっていた頭を冷やす。
「すぅー……はぁー…」
自分でも、冷静になっていくのが分かる。
「おぉ、大分冷静になったみたいだね」
深呼吸をして、思考を切り替える。
さっきまでは、何で当たらないのか、どう''すれば”当たるのかだけを考えていた。
だが今は違う、今考えるのは、どう”やって”攻撃を当てるかだ。
ザイルの回避力は高い、おそらく魔導士だから、接近戦を挑んでくる奴らが多かったんだろう。
考えろ。 今俺が出来る事を。
考えろ。 理想の勝ち方を。
「……ザイル先生、俺の全力で…貴方を倒します」
「…ふふ…それは楽しみだ」
小細工を使わずに勝つには、俺にはまだまだ知識や実力が足りない。
だから、小細工でも卑怯な手でも、使える物は何でも使ってやる。




