21話 「剣魔学園、入学試験」
「ルージュ、ルージュ!! 起きて!」
「ん……んん…?」
「もう朝だよ、早く準備しなきゃ」
セレナに身体を揺すられ、俺は目を覚ました。
最初は寝ぼけていたが、時間が経つにつれ、だんだん意識が覚醒してきた。
まず、ここは宿だ。 俺とセレナは王都の宿に泊まっていた。
「…そっか、もう今日なんだな」
「うん、5年間必死に修行してきたよね」
そう、俺達は7歳の時からディノスとフローラに剣術と魔術を教わってきた。
それは全て今日、剣魔学園に入学するためだ。
5年間、長いようで短かった。
「確か、入学式は昼からだったよな」
「うん、だけどディノスさんは早めに行って校舎や敷地内を見て回った方が良いって言ってたよ」
「そうなのか、んじゃ早めに出るか」
「うん!」
俺はワクワクしていた。
だって入学式だぞ? 日本での学校生活は最悪だったが、この世界の人達は優しい人ばかりだ。
もう中学の時みたいな事にはならないだろう。
…ならない、はずだ。
だ、大丈夫だよな…?なんか急に不安になってきた…
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「セレナまだかー?」
「ちょっと待ってー!」
俺は今廊下に居て、俺達の部屋の扉の前に居る。
中では現在、セレナが着替え中だ。
流石に男と女が一緒に着替えるわけにはいかないので、1人ずつ着替えよう、とセレナが提案したのだ。
あれ? 男女が一緒の部屋で寝るのもまずくないか…?
まぁセレナが何も言わなかったらから良いのか…?
「おまたせ!」
セレナが部屋から出てきた。
セレナの服装は、白いブラウスに青いスカートという動きやすそうな格好だ。
…動きやすそうだが、スカートでもいいのだろうか。
俺の服装は黒いズボンに赤いインナー、それに黒のロングパーカーを着ている。
この服はディノスとフローラからのプレゼントで、普通の服よりも頑丈に作られているらしく、ちょっとの衝撃じゃ破れたりはしないらしい。
服装だけを見たらお互い日本に居てもおかしくはないだろう。
だが俺は背中に剣を、セレナは腰に細剣を刺している。
それだけで異世界感が急上昇する。
恐るべし剣の威力……
「それじゃあ行こうか」
「おう。 確か剣魔学園は王都の東側だったよな」
「うん、そうだよ。 大きいから近くまで行くとすぐ分かるって言ってた」
「ほぉー、楽しみだな」
俺達は宿を出た。
宿代は既にディノスが払っていたらしく、宿屋のおじさんは笑顔で送り出してくれた。
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「ね、ねぇルージュ…本当に大丈夫かな? 私、周りから睨まれてない?」
「大丈夫だって、いい加減顔上げろよ。転んでも知らないぞ?」
さっきからセレナが何回も同じ質問をしてくる。
セレナは現在フードを被っていない。
つまり、エルフの特徴である耳を隠してないのだ。
昨日セレナはディノスから
「王都の人達は異種族とか関係なく接してくれる人が多いから、もう耳を隠す必要はないぞ」
と言われていた。
「うぅ…」
だがセレナ本人はこれだ。
恐怖で前を向く事が出来ないのだ。
まぁそれも無理はない、セレナはずっとドーラ村では耳を隠して生活していた。
なのに突然耳を隠さず人がいっぱいいる場所を歩けと言われたのだ。
怖くない訳がない。
「ふぅー……よし…」
セレナが深呼吸をする。
どうやら覚悟が出来たらしい。
セレナは勢いよく顔を上げ、前を見た。
「っ!」
セレナが一瞬で固まり、顔は怯えた表情になる。
よく見ると小さく震えている。
俺はそっとセレナの背中を撫でながら
「大丈夫だ、ここはドーラ村じゃない。 誰もセレナをイジメたりしない」
俺がそう言うと、セレナの震えが止まる。
「…うん。ありがとうルージュ、もう大丈夫…!」
「そうか、よし!んじゃ早く剣魔学園に行こうぜ!」
「うん!」
俺とセレナは、剣魔学園を目指して走り出した。
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「あっ、ルージュ! アレじゃない?」
「ん? どれどれ…」
俺とセレナは王都の人に剣魔学園の方向を聞きながら、進んだ。
セレナが指を指した方向を見てみると…
「で……」
え、ウソだろ? マジでコレが…
「デケエェェッ!?」
剣魔学園か!?
「うん! 大きいねー!」
いや、デカすぎだろ!
剣魔学園はレンガ造りで、高さは4階まであった、そしてその建物は横に長かった、どこまで続いてるか分からない程だ。
そして結構前からある学校のはずなのに、傷や汚れが見つからない、キチンと手入れされてるのだろう。
「どうする? 早速入る?」
セレナが俺を見てそう言う。
俺達の前には巨大な門があり、その横には人が立っていた、きっと警備員だろう。
「そ、そうだな、入るか」
まだ驚いているが、早めに入って慣れておくしかない。
「あの、俺達剣魔学園の入学試験に来たんですが…」
俺は警備員の元へ行き、目的を告げる。
「では入学試験が始まるまで校舎を見学していて下さい」
「はい、分かりました」
「あっ、あり…ありがとうございます…」
警備員が門を開け、俺達は中へ入った。
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「中も綺麗だなー」
「そうだね〜。校舎も大きいし、花畑もあるし、凄いね!」
剣魔学園の中は、大きな公園のようだった。
地面は芝生で、花畑やベンチがある。
そしてそれらを囲むように巨大な校舎があるのだ。
「お、あっちは校庭か?」
俺の見てる方向には、地面は砂で、日本の学校の校庭と似ていた。
きっとあそこで剣術や魔法を習うんだろうな。
「あれ? ルージュ、なんかあの人こっちに手を振ってるよ?」
「んー? …あっ!」
セレナが見てる方を見ると、そこには見覚えのある奴がいた。
っていうか昨日別れたばかりだ。
「アリス!」
「ルージュさん! 昨日ぶりですね!」
一緒に奴隷商人の元から逃げたアリスだ。
アリスは白いワンピースに水色の長い上着を着ていた。
「アリスも校舎見学か?」
「はい! 今朝早く起きてしまって…」
「なるほどな」
「ルージュ、その人は?」
セレナが俺の服の裾を引っ張りながら言う。
「あ、そういえばセレナは初対面だったな、この人は…」
「アリスです。 昨日、ルージュさんと共に奴隷商人の元から逃げてきました」
「えっ、あなたも捕まってたの!?」
「はい、私とルージュさんの他に、あと2人いますが」
「初耳だよ…」
「昨日話す時間無かったからな」
「なるほどね…あっ、私はセレナ・エゼルミアだよ、セレナって呼んで!」
おぉ、セレナがちゃんと初対面の人と話せてる…!
耳を隠さずに歩いた事で自信がついたんだろう。
「分かりました!これからよろしくお願いしますね? セレナさん」
「うん! よろしくね、アリス!」
「んじゃ、アリスも一緒に見学するか?」
「いいんですか?」
「もちろんだよ! もっと仲良くなりたいし! 」
おぉ、セレナが積極的だ。
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あの後俺達は学園内を見て回った、見れば見る程、この学園が如何に大きいかが分かる。
流石に校舎の中には入る事は出来ないが、外見を見る限り中も相当綺麗なんだろう。
校舎見学をしている奴らも増えてきた、そろそろ入学式が始まる頃だろう。
「明日からここで勉強するのかー」
「楽しみですよねー」
俺の前では女子2人が楽しそうに話し合っている。
……うん、俺の居場所がない。
クリス、お前は一体どこに居るんだ。
俺のたった1人の男友達であるクリスよ……居るなら出て来てくれよー…
「アリスは剣術と魔法はどっちが得意なの?」
「んー…どちらかと言えば、剣術の方が得意ですね、セレナさんは?」
「私は魔法かなー」
「おっ、俺は…」
「魔法ですか! ちなみに何魔法が得意なんですか?」
「光魔法!」
やべぇ…会話に入れねぇ…これがガールズトークってやつなのか…?
セレナとアリスは完全に2人だけの世界に入ってしまっている。
何かに夢中になると周りが見えなくなると言うが、まさにその通りだろう。
………暇だなぁ…
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突然、空にパパンッ! パパンッ! という音がなった。
よく運動会の朝になるあの音だ。
「あっ、今の音は…」
「何か分かるの?」
セレナがアリスに問いかける。
「えぇ、入学試験が始まる合図です」
「もう始まるんだ!」
やっとか、校舎見学を始めてから2時間くらい経ったが、やっと始まるのか。
「じゃあ早く行こう! ルージュも、ほら!」
「! あ、あぁ! 早く行こう! すぐ行こう! 今すぐだ!!」
「なんか…テンション高いですね…」
「なにかあったの?」
「何もないぞ!」
そう、何もない、話しかけられて嬉しいという訳ではない。
決して違う。違うからな。
「んで、どこに集まればいいんだ?」
「校庭ですよ、さっき地面が砂の場所があったでしょう? あそこです」
やっぱりあそこでやるのか。
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校庭につくと、もう既にそこには大勢の子供がいた。
皆俺達と同い年だろう、全員剣を持ってたり、杖を持ってたりしている。
見た感じ、人数は……100…いや200……アレ? 多すぎない?
「な、なぁアリス? なんか…多くね?」
「私も毎年何人入学するのか分かりませんが…確かに多いですね…」
100人200人どころじゃないぞ…
「あー…お集まりの皆さん、静粛に」
誰かがそう言うと、場が一気に静まった。
声の方向を見ると、そこには1人の男性が皆から見える高台に立っていた。
「よし、静かになったな。まずは自己紹介だ。俺はこの学園の先生のグレンだ。
入学したら気軽にグレン先生と呼んでくれや」
グレンと名乗る男は、面倒くさそうに頭を掻きながら言った。
グレンは真っ赤な髪で、見た目は20代半ばくらいか。
「あー……まず、今年の入学希望者は…えー…何人だ? もういいや面倒くせぇ、1000人を超えてる」
適当だなー……
にしても1000人か、大分いるな。
「流石に1000人は多すぎる、だからこれからお前らを500人まで”減らす”」
それまで静かだった場がザワザワしだす。
「おいおい、俺は静かにって言ったぞ? 言ったよな? 」
場がピタッと静かになる。
グレンはまた面倒くさそうに頭を掻き…
「減らすって言っても、くじ引きで決めるわけじゃない。
まぁ簡単に言えば入学試験だな」
ディノスからあらかじめ入学試験がある事は聞いていたが…なるほど、その試験で人数を減らすのか。
んでその試験に受かったやつは実力のある奴の訳だから、結果的に優秀な奴が残る…という訳か。
当たり前だが高校入学の試験ではなく、戦闘系の試験だろう。
「試験内容は初等部校舎の3階にある第1試験会場に辿り着くことだ」
…は? 試験会場に着くだけ?
「なんだ、簡単じゃねぇか」
そんな声が何処かから聞こえた。
「ははっ簡単か。 ちなみに、ただ試験会場に着くだけじゃねぇぞ?」
そう言うと、グレンはポケットから赤い紙を取り出した。
「この学園の至る場所に教師を配置してる。 で、教師達には「試験中の入学生を見つけたら、襲っても構わねぇ」と言ってる」
…なるほど…大体分かってきたぞ。
「つまり、お前達は教師と戦うって事だ。
何も倒せって言うわけじゃねぇ。
教師が認めた生徒にはこの赤い紙を渡す決まりになってる。
この赤い紙を持って第1試験会場に着くのが合格条件だ」
入学生達の間に緊張が走る。
「だが実力不足で教師達に拘束、または気絶させられた場合。その時点でそいつは不合格となる」
なるほどな。
確かにこの試験なら実力を見るには十分だろう。
「お前らをこれからランダムに学園の敷地内にテレポートさせる。
その場から試験開始だ。 教師に自分の実力を認めさせて第1試験会場を目指せ。
先着500名を、試験合格とする」
テレポート、そんな魔術もあるのか。
にしても厄介だな、ランダムって事は知り合いと協力出来ないって事だ。
「る、ルージュ…」
セレナが俺の服を掴んでくる。
「大丈夫だ、父さんといっぱい修行しただろ? それを活かせばきっと合格できる」
「う、うん…」
不安なのは俺もだ。
だが、合格するしかないんだ。
「んじゃ、5秒後にテレポートさせるぞ。
因みに、この学園はかなり広いから、迷わないように〜」
5秒後か。
5……
「セレナ、アリス」
4……
「はい?」
「何?」
3……
「絶対に合格して、一緒に楽しい学園生活を送ろうぜ」
2……
「うん!」
「はい!」
1……
「んじゃ、また後でな」
俺とセレナとアリスは3人で拳を合わせる。
そして……
0…
俺達の身体が光り出す。
転移が始まったらしい。
俺達は目を閉じる。
ーー入学試験が、始まった。




