17話 「VS奴隷商人の手下達」
「君達にはお仕置きが必要ですねぇ」
そう言われた俺達は、パニックになっていた。
俺達の周りには棍棒を持った奴らが囲んでいて、逃げる事は出来ない。
しかもクレアが捕まっているので、まずはクレアを助けださなければならない。
「クレア! クレアを離せ!」
クリスが叫ぶ、完全に頭に血が上っている。
「ど、どうすれば……」
アリスが力なく呟く、この状況に絶望しているのだろう。
「…なんで、俺達が逃げ出したって分かった!?」
俺がボスに問うと、ボスはニヤリと笑った。
「当然、脱出されるのは予想外でしたよ。だけど爪が甘いですね。 ちゃんと敵から情報を聞いた後は気絶させないと」
「っ!? な、なんでそれを…!?」
アジトは1本道、あの奴隷商人を拘束した事をコイツらは知らないはずだ…
「上級魔法、テレパシー」
「っ!!」
「まぁ、使えるのは彼と僕の2人だけだけですけどねぇ。 僕は用心深くてですね、だからいつもテレパシーを使える彼を偵察に行かせるんですよ。 こういう時の為の為に」
「……」
盲点だった。 テレパシーという魔法自体は知っていたが、頭から抜けていた。
…俺のミスだ。
確かにこいつのいう通り、気絶させておくべきだった。
この状況を突破する手段は……正直無い。
無いが、俺は諦めてはいけないのだ。
ちゃんとディノスとセレナの所に帰らなければいけないのだ。
だから……
「火球!!」
どんな手段を使っても俺は帰る。
たとえ……誰かを殺す事になったとしても。
俺の火球は棍棒を持った1人の奴隷商人に当たる。
「熱ぃな!!」
だが奴隷商人の手下はただ熱がるだけだった。
原因は分かっている、威力不足だ。
今の俺は魔力が少ない、なんとか魔法は撃てるが、威力はとても低いのだ。
「くそっ…」
魔法が使えれば……全員は倒せなくとも、クレアを助けて逃げる事は出来た……と思う。
だが魔法の使えない俺は、ただの弱い子供だ。
剣術は上手くないし、体術なんてやった事もない。
俺の戦いの基盤は魔法だったのだ。
「さて…どうしますか?」
奴隷商人のボスが突然俺達に話しかけてきた。
「今君達がおとなしく牢屋に戻るなら、このお嬢さんは殺さないでおきましょう」
……そうきたか、あいつらにとって俺達は商品。
なるべく傷は付けたくないわけだ。
「ほ、本当か?」
「く、クリスさん!?」
クリスが震えた声で問いかける。
するとボスはニコリと笑い。
「えぇ、君達が素直に牢屋に戻り、じっと売られるのを待つならね」
「………」
クリスは黙る、きっと考えているのだろう。
正直、今の俺達の戦闘力ではクレアを助け出す事は出来ない。
「皆……すまない…僕は……」
クリスが俺達の方を振り返り、俯きながら言う。
「…僕は、クレアを死なせたくはない。 すまない」
クリスは頭を下げる。
自分の人生を捨ててまで、妹を助けたいのだろう。
兄として、それは素晴らしい物だと思う。
「…クリス」
「ルージュ…君には助けられて感謝もしている。 だが……」
素晴らしいとは思う。
だが……
「4人で逃げるんだ」
今はその選択はしちゃダメだ。
「なっ…君は状況が分かっているのか!?」
「あぁ、絶望的な状況だ」
俺達は相手に聞こえないよう、小声で会話をする。
「この中で1番強い君は魔力切れで魔法が使えない! 敵の数も多い! クレアを助けるにはこれしかないんだ!!」
「俺が使えなくても、お前とアリスは魔法を使えるだろ」
「使えるが…君に比べたら全然だ」
「それでもいい、時間さえ稼いでくれればいいんだ。
俺は自分の魔力が回復したら最大限の威力の魔法を使う」
俺はクリスの両肩を掴み…
「選べクリス、このままクレアと一緒に戻って、一生奴隷として不自由な生活を送るか。
俺達と協力してクレアを助けてこの場から逃げ、自由に暮らすか」
クリスの目が泳ぐ。
「………君達と協力した場合の……クレアの生存確率は……」
「…低いと思う。 だがゼロじゃない」
「………」
クリスが無言になる。
「僕は……できるだけ、クレアに笑って暮らしてほしいんだ」
クリスが下を向きながら呟く。
「このまま奴隷になったら、クレアの笑顔は見れないかもしれない」
たが、どんどん顔を上げ、クリスは俺の目をジッと見る。
その目は、先程までの弱気のクリスとは全然違かった。
「…僕は奴隷にはなりたくない。 クレアと共に……自由を選ぶ。
だから戦う…!君達と共に!」
「…クリス!」
クリスは俺達と一緒にクレアを助ける事を選んだ。
これで相手との交渉は決裂した。
ボスの方を見ると、まだニコニコしていた。
「話は終わりましたか?」
「あぁ、ちょうど今、終わったよ」
「そうですか。
では、もう一度聞きましょう。 君達がおとなしく牢屋に戻るなら、このお嬢さんは殺さないでおきましょう。
さて、どうしますか?」
クリスが前に出て、叫ぶ。
「奴隷なんてごめんだ!! 僕はクレアと自由に生きる! クレアを返してもらおうか!」
ボスの顔が崩れた。 あれは、失望した顔だ。
「行くぞアリス!」
「はいっ!」
俺は剣を抜き、特攻する。
アリスも俺の後に続く。
「クリスは援護を頼む!」
「任せろ!」
クリスはその場で杖を構える。
俺とアリスが向かう先は、クレアの場所だ。
まずはクレアの救出が最優先だ。
「アリス、俺は今魔法を使えないから、魔法は任せる!」
「分かりました! ルージュさんは剣術に集中しててください!」
「任せたぞ!」
「このガキが!」
「行かせねぇぞ!」
そんな俺達の前に2人の奴隷商人が立ちはだかる。
「邪魔だあぁっ!」
「はああぁっ!」
俺が右の奴隷商人を斬り、アリスが左の奴隷商人を斬る。
奴隷商人2人は倒れて気を失う。
斬りはしたが殺してはいない。
今ので分かったが、アリスの剣術はレベルが高い。
同じ攻撃をしたはずなのに、アリスの方が速さも正確さも全然上だった。
「敵は……数えましたが奴隷商人が15人ですね、今私達が2人倒したので、あと13人です」
「了解だ」
警戒したのか、今度は奴隷商人全員が俺達に向かってくる。
「行かせるか! 石弾!!」
奴隷商人と俺達の間に石弾が通る、やったのはクリスだ。
クリスが石弾を撃ったおかげで、奴隷商人達の足が止まった。
「アリス!」
「はい! なんですか?」
「俺は今でも少しなら魔法を使える、だからここら辺の地面一帯を……いやっ、あの奴隷商人全員の足元を水浸しに出来るか!?」
「奴隷商人全員…ですか…」
奴隷商人は13人、しかも四方八方から走ってきている。
「無茶を言ってるのは分かってる。無理なら…」
「いいえ、出来ます! やってみます!」
アリスはやる気になった。
俺とアリスは立ち止まり、奴隷商人の様子を見る。
あと10メートルくらいか。
「よし! アリス今だ!」
「聖水領域!!」
アリスがそう言った瞬間、ここらの地面一帯が水浸しになった。
見れば奴隷商人13人全員の足元も水浸しになっている。
凄いな、ここまで出来るとは……
「ルージュさん! 今です!」
「あぁ! まずは……岩創造!!」
俺は自分とアリスの下に土魔法で水に触れないくらいの岩を作り、アリスと共にその岩に乗る。
「なんだか知らねぇがただの水だ!」
「気にせず進めええぇっ!」
奴隷商人が叫びながら走ってくる。
俺は岩の上から地面の水に手を向け……
「雷球!」
地面に雷球を撃つ。
「雷球! 雷球!!」
さらに2発雷球を撃つ、いつもは平気だが今の状態では3発が限界だった。
「ぐああああっ!?」
「ああああっ…!」
奴隷商人達の叫び声が聞こえる。
見ると奴隷商人13人全員が痺れて地面に倒れていた。
やっぱり聖水と雷は相性がいいらしい。
「やりましたねルージュさん!」
「あぁ、アリスのおかげだ。 ありがとな!」
「はいっ!」
奴隷商人全員は無力化した。
あとは……
「お前だけだぞ。 もう諦めてクレアを返せ」
俺はボスを睨みながら言う。
「はははは! 驚きました。まさか全員がやられるとは……
ますます、欲しくなりましたよ」
どうやら諦める気は無いらしい。
「僕が戦うしかないですねぇ」
「別に戦わずに逃げてもいいんだぞ?」
「ははは、君達は必ず捕まえます。 これは決定事項です」
「そうか。 …アリス、まだ戦えるか?」
「もちろんです。 ルージュさんは、魔力回復しましたか?」
「いや、まだだ。 でも多分もう少しで回復すると思う」
ボスがどれ程強いかは分からない、だが、どんなに強くても勝つしかないのだ。




