公爵令嬢のバレンタイン
今日はバレンタイン。恋人や、思いを寄せる相手にチョコレートを贈る日。
もとは異国から伝わってきた風習だが、今や子どもから大人まで知らない者はいない。すっかり我が国にも根付いている、一大イベントだ。
公爵家令嬢、レイチェル・ギルスは考えていた。
(理想は手作りなのだけど…どうしようかしら…)
レイチェルは自他共に認める箱入りの公爵令嬢。お菓子を作るどころか、厨房にすら入ったことがない。
(料理やお菓子作り…今までも気にならなくはなかったけれど…私が厨房に出入りすると料理人たちが料理に集中出来ないのよね。どうしても、私への対応が優先されてしまうから。それでは、彼らも仕事にならないし…)
今までは厨房に入れなくても、お菓子を作れなくても何も問題なかった。けれど、今年のバレンタインは出来るなら簡単なものでもいいから、手作りのものを、ハリー様…ハリス王子に差し上げたいと思っている。
(ハリー様にだけ差し上げると、お父様やおじさま(国王陛下)が、うるさいかも…? 用意するなら、お父様とおじさまのものもついでに作らないといけないわね…)
というわけで、申し訳ないのだけれど…と料理長に事情を話し、相談した結果。
私が一からチョコレートを作るのは難しいだろうということで、料理長が土台となるお菓子を作り、私が最後の仕上げのデコレーションをするということになった。料理長曰く、貴族令嬢の手作りお菓子としては、これでも充分過ぎるだろうとのことだ。
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お菓子の腕も一流の料理長が腕を振って作り上げた甘さ控えめのチョコレートケーキに、料理長の手ほどきを受けながら、デコレーションをしていく。
(なかなか思った通りには出来ないものね…。でも、最後のケーキはなかなかの仕上がりだわ、これをハリー様に差し上げるとして…2番目にうまくできたものをおじさまに。1番微妙なのは…お父様かしら。お父様なら、多少失敗作でも喜んでくださるはずだもの)
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レイチェルからチョコレートケーキを受け取った3人は、レイチェルが思っていた以上に喜んでくれた。ハリスに渡すついでだろうとはわかっていても、国王陛下も公爵も喜んだ。かわいくて仕方のないレイチェルからの、初めてのバレンタインのプレゼントなのだから。
張り切った3人から、ホワイトデーには特上のお返しがあるだろう。果たして、ハリスはレイチェルを笑顔に出来るお返しを選ぶことができるのだろうか、そのセンスやいかに……。