待ち合わせ
日曜。午前9時。
ピーンポーンと朝からチャイムが鳴る。
身支度を整えて待っていた僕はそのチャイムを合図に玄関を開けた。
「ゆう、おはよ」
朝からいい笑顔で挨拶をしてきたのは慧だった。
「ん、おはよう。行ってきます」
慧と、リビングにいる母にそれぞれ挨拶をして靴を履く。
「自転車?」
「いや、歩きで最寄り駅には行けるし、そのために少し早く来た」
「分かった」
目的の駅まで最寄り駅から二駅先にある。
「ゆう、今日見たいものとかあるか?」
隣を歩く慧が聞いてくる。
「うん、母の日のプレゼントが見たいかな」
昨日、凪央にも見てくると約束したし。
「ほー、相変わらず偉いな」
「一昨日凪央に言われて思い出したんだよ」
「偉いなー、お前ら兄弟」
幼馴染みなだけあって、慧は凪央のこともよく知っているし、この二人はクラスの立ち位置が似ているせいか仲がいい。
「そんなことないよ」
謙遜と言われればそうかもしれないが、僕達の中ではこれが普通なのでそう返す。
普段の会話を繰り返すうちに最寄り駅についた。
並んで切符を買い、電車を待つ。
「相坂さんと慧は分かるけどあと一人は?」
ホームで待っている時に、僕は慧に聞いた。
「ん、未奈?同じクラスの谷本未奈だよ」
名前を言われても分からない。谷本……さん。
「ゆうは周りの女子とか興味無さそうだからなぁ……分からないのもうなずけるけど、興味無さすぎ」
慧の言う通りだ。相坂さんは隣の席だったり、クラスの中でも中心でわいわいはしゃいでいるタイプだったから名字は覚えていた。
「まぁ未奈はバレー部でなかなか可愛い。その様子だと知らないかもしれないけど、俺の彼女」
「え!?」
ここ最近で一番驚いた素っ頓狂な声をあげてしまった。
「言ってなかったからな、姫乃以外には」
「聞いてないよ……」
幼馴染みにも知らない一面、というか、知らない事実があるのか……。
「じゃあ僕は慧たちカップルと仲のいい相坂さんのお出掛けに付き合わされるの?」
「その言い方だとなんか悪く聞こえるけど、そういう事になるな!」
……余計、僕が誘われた意味がわからなくなった。
30分くらい経ってから、僕達は集合場所についた。時刻は9時
45分。待ち合わせ時間よりも早いし充分だろう。
「ちょっと早かったなぁ〜」
左手にした腕時計で時間を確認する慧と、駅構内に飾られている時計を見る僕。
「あっ、二人とも早い〜」
まだ待ち合わせ時間よりは早いけれど、彼女達も早めに来たみたいで、前方から手を振ってこちらにかけてくるのが見えた。
「お、未奈ー!姫乃ー!」
朝早いとはいえ周りにまだ人がいるとしても少し恥ずかしいくらい大きな声で、大きく手を振る慧。
「おはよ!」
「おはよ〜」
僕達のところまでつくと彼女達は改めて挨拶してきた。
「おはようございます」
僕も同じように挨拶をする。
「よっし、じゃあ行こうぜ」
全員揃ったのを確認して慧は先導して歩き始めた。
「どこに行くの?」
詳しく今日のことを聞かなかったので、確認程度に聞いただけだった。
「映画」
「は?」
お昼を食べることは聞いていたが、映画は聞いていない。
「なんの?」
「今やってる恋愛映画」
「………………」
まだアクションやSFなら良かった。男として、それなら集中して楽しんで鑑賞できただろう。しかし、今回は恋愛映画。ラブストーリー。
「ほら、ゆう。早く行くぞ?」
自分の確認不足だ。ちゃんと相坂さんに詳しく聞いておくべきだった。
「氷川くん……もしかして嫌だった?私映画って言ってなかったし……ごめんね?嫌ならやめる?」
僕の様子を見て、相坂さんが申し訳なさそうに謝ってきた。
自分のミスだ。相坂さんはしょげた表情を浮かべている。
「あ……大丈夫だよ。少し驚いただけ」
軽く笑顔で相坂さんに言った。
お金の方は問題ない。時間もあるし……。久々の映画もいいだろう。
「よし、問題ないな。行くぞー」
今日は大人しく、この三人について行くことに決めた。