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朝の図書館

 


 お風呂から無事出た後、一杯の水を飲み部屋に戻った。

 のぼせるまで考えるって、どんだけ集中していたんだ。

 今度こそ机の上に置かれた本を手に取る。今日の予定はもう寝るだけだ。今の時間は23時を回っていた。

 ベッドに腰かけ本を開く。挟まれたしおりを抜き続きを読む。

 次第に本を読む体勢は崩れ、横になっていたが、眠気は襲ってこなかった。

「…………」

 黙々と読む。

 内容はラストに向かう。少し感動して、じんと来た。

 福原先輩の言っていたとおり、確かにこの本は素晴らしかった。

 残りのページ数が少なるにつれて目元に溜まった涙が頬に流れ落ちた。

 そして、最後の一文を読む。

「……ふぅ」

 柄にもなく、一度泣き始めたら最後まで涙が止まらなかった。結構大泣きした。

 報われないけれど、それでも不思議と悲しい話ではなかった。

 なるほど、やっぱりいい本だ。先輩が勧めてきた理由が分かった。これは僕も誰かに勧めたい。

 熱くなった目元を拭おうとベッドから起き上がる。ちらりと時計を一瞥する。時刻は1時を回っていた。

「そろそろ寝るか……」

 目元をティッシュで拭き、本を再び机の上に置いた。そして部屋の電気を消した。

 明日。この本を彼女に返そうか………………いや、もう一度読み直してから返そう。福原先輩もそう言っていた。

 そう思い、ベッドに戻り、目を閉じた。



 -----



 次の日、いつものように学校へ行った。

 もちろん、福原先輩から借りた本を持って。

 自転車を漕ぎながら、やはり本の事を考えていた。人にここまで影響を与えられる本はそう多くない。

 学校につき、駐輪場に自転車を止める。

 昇降口で外靴を脱ぎ指定の下駄箱に放り込む。スリッパに履き替えて教室に向かおうと思った。

 が、一度考えて図書館によることにした。

 こんな朝から彼女が、福原先輩がいるとは思っていないが、委員であるなら、もしかしたら。

 読み終えたことともうしばらく借りたい旨を伝え、かるく感想を話すのもいいだろうと、そう考えたからだ。

 まっすぐ図書室に向かう。少し軋むドアを開け中に入ると、案の定、そこには誰もいなかった。


 --朝だし、そりゃあ誰もいないのが当たり前か。


 申し訳ない程度にカーテンから漏れる朝日だけが照らす静かな図書室。いるのは自分ただ一人。

 来た道を戻ろうと振り返ろうとしたその時、後ろから足音が聞こえた。

 僕は振り返る。

「……結宇くん?」

 目の前にいたのは、福原先輩だった。まだ教室にはいってないみたいで背中には鞄を背負っていた。

「あ……」

 まさか会えるとは思っていなかった。

「どうしたの?こんな朝早くから図書館なんて」

 彼女は珍しそうに、そして興味満載、というような顔をして聞いてくる。

 あなたに会おうと思って。なんて、慧や母の時みたいに変な誤解を生みたくなかったから、僕は質問に質問で返した。

「先輩こそ朝からどうしたんですか」

 僕自身の事には触れない。だって、彼女に会ったことで目的は果たしているから。

「私は委員長だから窓開けと昨日の放課後やり残した作業をしようと思って」

「先輩、委員長だったんですか」

「ん?そうよ」

 知らなかった。

「というか、その変な敬語やめてほしいな。先輩ってわかったら態度変えるなんていやよ」

「あ……。ごめん、一応その方がいいのかなって思って」

 というよりも、無意識に使っていた。

「気にしないで今まで通りでいいじゃない」

 今まで通り、といえるほど彼女との仲は古くないし親しくもなかったはずだが……。

「分かった。……借りた本読んだ、なかなかよかったよ」

 そういうと、彼女の表情がぱぁっと明るくなった。

「一日で?」

「続きが気になって……。で、そのことでもう少し借りていたいんだけどいいかな?」

「ええ。そう言ってもらえて嬉しいよ。返す日は気にしないで楽しんでね」

「ありがとう、じゃあ僕は教室に行きますね」

「うん、じゃあまたね」

 彼女は片手を胸の位置まで上げて軽く手を振った。僕もつられて手を振り返す。

 彼女は図書室に向かい、僕は教室に向かった。


 傷は、見えなかった。



 -----


 数分で教室に着いた。

 教卓の前を通り、自分の席に着く。

 鞄から必要なものを取り出し、最後に彼女からの本を出した。

 朝のSHRが始まる前の10分くらいの短い時間、この学校ではそこは全校読書の時間と決まっている。

 そろそろ登校完了にチャイムが鳴る。クラスのほとんどがもう席に着き始めている。僕も荷物を全部出し終え、席に座り本を開いた。

 二週目。

 昨日とは違う感覚で一ページ目を開いた。




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