明るい彼女
「私決めてたの!このイチゴのヤツ!」
席に案内されてすぐ、相坂さんはメニューを開く前に何にするかを決めていたようだ。
「私は…………悩むなぁ」
「どれ悩んでるの?」
「このチョコレートとバナナ……」
「じゃあ俺がチョコレートにするからバナナの方にしなよ。シェアシェア」
「ほんとに!?いいの!じゃあそうする」
一方、慧と谷本さんはそれはもう恋人オーラ全開だ。
席の座り方は並んだ時とは違って、普通に男女で分かれて座った。慧と谷本さんが必ず隣という訳では無いみたいだ。
「氷川くんは??」
はやく注文して食べたいのか、目をキラキラと輝かせた相坂さんがメニューを勢いよく僕の方へ見せてきて聞いた。
「んー、そうだな」
メニューには何種類かの果物がパンケーキの上に乗っている写真や、何段も重なったものがたくさん載っていた。ほかにも、メニューの中に小さくパンケーキ以外のものも書かれていた。相坂さんが言ったとおりパスタもあったが、ここまできたらパンケーキを食べた方がいいはずだ。
どれにしよう。
「このお店の一番人気はね、イチゴなんだよ!私はイチゴにする!」
悩む僕を見て相坂さんが言う。
一番人気……か。なら外れることはないだろう。
値段は少し言われていたよりも多かったが、ここは仕方が無い。
「じゃあ、僕もイチゴで」
「おっけ!!じゃあみんな決まったよね?すいませーん!」
全員がどれにするか決め終えたのを確認してから、逢坂さんは大きな声で近くにいた店員に声をかけた。
「はーい、お伺いしまーす」
その声にこたえ、僕達のテーブルに店員さんが来る。
白いエプロンが可愛らしい店員はいかにも営業スマイルですというような笑みを顔に貼って注文をとりにきた。
「イチゴ2つと、あとチョコとバナナ。以上でお願いします!」
相坂さんは全員分の注文を店員に伝える。
「かしこまりました」
それぞれの注文を繰り返し、間違いの無いことを確認した店員はキッチンへと向かっていった。
パンケーキが届くまでのあいだ、僕達は雑談をしていた。
学校のこと、勉強のこと、慧と谷本さんのこと、各々の家庭のことなど。特に取り留めのない話だ。
1つ驚いたのは慧と谷本さんのことだった。彼たちはもう半年以上交際を続けているらしい。知らなかった。いや、気づかなかった。
そんなことを話しているうちに、先ほどとは違う店員が僕達のパンケーキを持ってきた。
「お待たせしました」
店員はどれが誰のものなのかを確認し、それぞれのパンケーキを前に置いていく。
運ばれてきたと同時に甘い匂いが充満する。
ごゆっくりどうぞ、と一言言って、店員は仕事に戻っていった。
「おいしそう!」
まず口を開いたのは相坂さんだった。
そして鞄の中から携帯を取り出し、写真を撮り始める。
相坂さんの隣にいた谷本さんも同じように写真を撮っていた。……女子は写真を撮るのが好きなんだろうな。
「よし、じゃあいただきます!」
写真を撮り終えると、フォークとナイフをもち、彼女達は食べ始めた。
それぞれの果物と、チョコソース、ホイップクリームがふんだんに使われているパンケーキを一口サイズに切り分け、口に運ぶ。
「どう?」
そんな2人を見ていた慧が聞く。
彼女達は聞くまでもないという顔をして、
「めちゃくちゃ美味しい!」
「ふっわふわだよ!」
と答えた。
その顔はさっきよりも輝いて幸せそうだ。
「2人も早く食べなよ!」
そう相坂さんに促され、僕もひとくち食べた。
……うん、これは美味しい。さすが女子に人気のパンケーキ屋というところだ。
どう?美味しいでしょう?と今にも言いたそうな顔をして僕の感想を待っている逢坂さんに、僕は素直に言った。
「すごく美味しいね」
「でしょう!」
相坂さんは自信ありげに言った。ますで、自分が作ったものを褒められたみたいで、思わず笑ってしまった。
そのあと、僕は黙々とパンケーキを食べた。美味しいと黙って食べ続けるタイプだ。
慧と谷本さんはお互いのパンケーキをシェアしていた。谷本さんが「あーん」とおなじみの言葉とともに一口サイズに切り分けられたパンケーキを慧に差し出す。慧は少し恥ずかしそうにしながらそれを食べた。
そして同じように自分のパンケーキを谷本さんにあげていた。……さすがに「あーん」とは言わなかったが、そんな幼馴染みを見ていて、なんだか恥ずかしくなった。
いくら幼馴染みとはいえ、知らない1面というのはたくさんあるみたいだ。
相坂さんはそんなふたりを冷やかしつつ、満足そうにパンケーキを頬張っていた。
全員が食べ終えてから少しゆっくりしてから、店をあとにした。
時刻は午後二時過ぎ。まだ時間は結構ある。
女子が買い物をしたいというから僕達はショッピングモールへと来ていた。僕も凪央と約束した母の日のプレゼントを探さないといけなかったからちょうどいい。
「僕も見たいものがあるから、別行動でいいかな?」
エスカレーターをのぼりながら、僕は3人にいった。
「そのほうが、あとで時間余って他のところとかもいけると思ったんだけど」
これは建前だ。1人で行ったほうが気を使うこともないし、ゆっくりじっくり、自分のペースで選ぶことが出来るだろう。何人かで買い物をするのはあまり得意じゃない。
「そっかぁ、わかった」
相坂さんは少し残念そうな表情を浮かべた。
「じゃあ私たちの買い物が終わったら連絡するね!」
が、そのあと、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「ありがと」
そうして、僕らは別行動でそれぞれの目的を果たしに行った。