ピンク
二時間後。映画を見終えた僕達は昼食をとるために町中を歩いていた。
映画館は駅ビルの中にあったから移動に時間をかけず、あのあとすぐに見に行くことができた。
恋愛映画はどこかその世界に入れないと思ったが案外面白かった。安っぽい作品じゃなく、奥が深かった。
「んと、ここ!」
今回先導して前を歩いていたのは相坂さんだ。おすすめのお店、というより、一度行ってみたかったお店に行くとのことだ。
目的のお店についたようで、彼女は立ち止まった。
そこは、男子の僕からすると異次元に近い。基本の色はピンク。中にいる人のほとんどは……というか、見える限り女の人しかいない。
今女子の中で話題のパンケーキ屋。……らしい。僕には全く分からない。
でもまぁ、甘いものは嫌いじゃないから構わないが……。
「少し並んでるけど……」
谷本さんがどうする?と問うように相坂さんに言った。
「並ぶしかないでしょっ!」
相変わらず元気な返事。顔はとてもいい笑顔だった。
列の最後に4人で並ぶ2列で並ぶよう店側から指示が出ているのでそれに従って並ぶ。並び方はもちろん男女で、と言いたいが慧と谷本さんは付き合っているので2人で並ぶ。必然的に僕と相坂さんが隣で並ぶことになった。
前には6組ほど並んでいるが、店の回転がいいのか、他の三人の会話を聞いていたらあっという間に前には2組だけになっていた。
「あ~‼すごく楽しみ‼」
「ここ麻奈美たちも来たらしいしめっちゃおいしいらしいからね~」
相坂さんたちが受付が近づくにつれてテンションが高くなっていく。見ていて面白い。
「ゆう、あまいもの平気だよな?」
僕の前に並ぶ慧がこちらを振り返り聞いてきた。
「うん、大丈夫」
この輪の中にはいれない僕に気を使ったのか、慧はこういう時に気が利く。
「正直、女子の中には入っていけないよなぁ。こんなピンクの店もそうだけど、未奈たちの会話も……」
肩をすくめる慧。どうやら気を使ったわけではなく慧も会話に入れずにいたようだ。
まぁ、女子の会話に入れる男子はなかなかいないだろう。
「氷川くん、何食べるー?」
そう慧と話しているうちに隣にいた相坂さんが僕に声をかけてきた。
「んー……。パンケーキ以外に何があるのか分からないから……」
そう、わからない。
「あ、そっか!ここね、パンケーキ以外にはパスタとかあるよ!」
「そうなのか。パスタもいいね、中に入ってからメニューとか見れる?」
「うん、あるある!」
「ならそこで決めるね」
相坂さんは上機嫌だった。にこにこるんるん、という感じだ。
呼ばれるまでもう時間はそんなにかからないだろう。
そのとき。
並んでいたパンケーキ屋の少し先に、彼女が見えた。
福原先輩。
「……先輩」
声に出しているつもりはなかった。
「え?どうしたの、氷川くん」
相坂さんが僕の目線に気づいたのか、その方向に目を細めた。
「あ……」
相坂さんも気づいたのだろう。
彼女は1人だった。
少し長い髪を片側に束ね、少しここから見ても清楚に見える服を着ている。
「………………氷川くん?」
「えっ、あ。ううん、何でもない」
彼女から目が離せなくなっていた。
「次でお待ちの4名様でお待ちの相坂様」
「あっ!はいはい!」
相坂さんが名前を呼ばれて元気に手を挙げる。どうやらやっと店内に入れるらしい。
店員に案内され、僕達はピンクの中に足を入れた。