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心と身体 After  作者: 山口みかん
8/10

外伝 届いてた

 彼の居ない世界……

 彼は天に召されたのだと……

 なら、一番高いところに行けば彼に近付けるのでしょうか… 彼に会えるのでしょうか……


 空に一番近い場所……

 彼に近い場所……

 ここから飛べば彼の元に手が届くだろうか……


 私は必死に空へと手を伸ばし、そして窓から飛び立った。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――



 私はずっと彼女を見ていた。

 切っ掛けは、その強い強い想い……

 苦しみ、悲しみ、そして愛

 これらが奇跡とも呼べるバランスで混じり合い、とても強い想いとして私に届いた。

 そして、そのあまりに綺麗な魂に目を奪われた。

 だからこそ、その魂にまとわりついた穢れが気に障る。

 こんな綺麗な魂に傷をつけたのも許せる筈もない。


 私が奇跡なんて言葉を使ったら駄目よね。


 この世界の女神たるこの私が。




「助ける……と?」

「そう」

「お戯れを。このような例など、いくらでも見てきたではありませんか。それら全てをお助けになると?」

 もう。頭が硬いわね。

 生真面目に過ぎる天使長にため息の一つもつきたくなる。

 この生真面目さだからこそ、頼りなるのも確かなのだけれど。


「理由はなんだっていいわよ。今日の髪型が素敵に決まったからとか」

 そう。重要なのは、彼女の魂が私の心を震わせたということ。

 この女神たる私の心を。

 それ程までに魅力的な魂。

 ならば、表向きの理由なんてなんでもいい。


「よくお似合いです」

「あら。ありがとう」

「ですが、どのようにお助けになると?」

「そうねぇ……彼女自身を汚される以前の綺麗な身体に戻してあげたいし…… 巻き戻しかしら?」

「は?」

 天使長が絶句する。

 それはそうでしょう。

 世界全体を巻き戻すのだ。

 必要な力は半端ではない。


 確かに時の流れを戻さずに済むならそれに超した事は無い。

 彼女の命を救い、彼女が愛するあの者を戻し、死んで居なかった事にするだけなら話は簡単だ。

 それだけで、後は放っておいてもあの者が彼女をどうにかするだろう。

 少なくともあの穢れの者に彼女の魂を闇に持って行かれる最悪の事態にはならないだろう。


 だが、それでは駄目だ。それでは魂そのものの傷が治せない。私が求めているのは魂そのもの輝きだ。

 それ故、穢れを祓い、穢れに傷付けられた彼女の魂を元に戻すには巻き戻すしか無いのだ。

 私にとって、彼女の身体があの穢れの者に汚される前に戻るのはそのおまけに過ぎないのだけれど、建前の理由としてはそれで充分だろう。


「そこまでするほどですか?」

「するほどなのよ。あと、彼女の記憶だけは残すわね」

「………………」

 苦い顔をされた。

 おまけにジト目で見られる。

 その目はやめて。


「仕方ないでしょう? 巻き戻してもそのままではそれまでの因果に従って同じ道を辿るだけだもの」

 それを防ぐ為の布石……

 辛い記憶となるだろうけれども彼女の魂であればきっと…… いえ、彼女が愛するあの者が共にあればきっと耐えられる。


「ですが、そのような事をすれば貴女自身が……」

 ただでさえ膨大な力を要する巻き戻しに、細心の注意を要する特例処置を施す……

 そんな事をしたら、しばらくは動けないでしょうね。


「その間の事は御願いね。頼りにするわ」

「はい。 いや、しかし……」

「ほんの百年程度よ」

「百年? そんなに短く?」

「彼女たちにも協力して貰うわ」

「それが可能で?」

「あの二人なら可能だわ」

 彼女たちの魂を繋ぎ、私と絆を繋げば、二人からもこの世界に漂う力を得ることが出来る。

 この二人であれば私と繋がることも可能だろう。

 そう。その手段は……


「なるほど……そう言うことですか。わかりました。それではこちらでもその為(お迎え)の準備をしておきましょう」

「御願いね。私の両親(めがみのりょうしん)になってもらうのだから」

 そう。この世界がある限り(・・・・・・・・・)ありつづける(・・・・・・)私の両親に。


 この私に両親となり得る事が可能な存在がいるなんて思いもしなかった。

 楽しい。

 そう、これはきっとこれから始まる楽しい素敵な時間。


「じゃ、巻き戻すから。後はよろしく」

「お任せ下さい。では、いっていらっしゃいませ」


 力を解放して世界を巻き戻す。

 最後の力で彼女の中で眠り、あの者の精を授精し魂を繋げるその時を待つ。

 それまでは二人で頑張ってね。信じてるわよ。


 次に目覚める時は、この世界に産まれてこの世界で死するまで人として生きるのね、楽しみだわ。



 …………あ! この世界で生きるということは私に旦那様ができるかもってこと?


 力を使い果たして意識が遠のいていく。


 まって!

 そこ重要!

 初めてなのよ!?

 素敵な旦那様を――――――――――――


 だめ…もう…意識が………………二人とも後はおねがい…私に素敵な旦那さ…………





「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー」

「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」

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