その7 絆
海のシーズンが過ぎました。
残念ですけど仕方が無いですね、としょんぼりしてましたら……
なんと、旦那様が二ヶ月のお休みを頂きました。
しかも王家所有の最新鋭の大きな三角帆付き豪華ガレー船に同乗させていただけるという……
うわぁ、客室が想像以上に豪華……ベッドひろーい。
プ…プールも船内にあるぅ……天井が沢山のガラス貼りぃ……
食事も船旅の割りに豪華なのは大きな氷温庫もあるからだそうです。
後ろの甲板には畑も見えるのは気のせいですか?
飲み水も海水から蒸留して作れるのだとか。
ここ、船ですよね?
新たに同盟を結ぶ国へ事前に使者を送る際、王家の威光を示す為にこの船を出すついで……とは伺っておりますが…………
…………だ……旦那様、あなた、いったいどれだけ重用されてますのですか?
途中、あちこちに寄港しつつも順調に目的地へと向かいます。
そして今、私たちは海外にいます!
ここで降りたのは私たち二人と侍女一人だけ。
荷物はここで宿泊するあそこに見えるお城に運び込んで頂いて………… 城? 離宮ですか!?
あとはこちらの方々にお世話になるだけ……
聞けば、ここは王族専用の施設なのだそうです。
もちろんここから見えるビーチも含めてこの周辺地域一帯が……
道理で護衛の一人も連れてこなかったと。
至る所に密かに護衛がいるのだとか。
ここを私たちが貸し切り……
あなたどれだけ…………
王太子殿下ありがとうございます!
きっと彼が立派に殿下をお助けしてご恩返しをしてくれますわ!
それはともかく初の海外旅行です!
楽しみますよ!
どこまでもキラキラ輝く青い海です!
沖にボートを出して波が殆ど無い穏やかな海を満喫し、色とりどりの珊瑚の中を泳ぐカラフルなお魚に目を奪われながら、深いところでも底まで見えちゃう透明な水に感激です!
ボートを楽しんだあとは白いビーチで一泳ぎ。
今日の水着は新調したばかりの、白地に青と黄色の花柄をあしらったワンピース水着です。
大丈夫です。最新水着なので白でも透けません。
彼の前でくるりと回ってお披露目すると、顔を赤らめながら褒めてくれる姿に心もはずみます。
二人で砂浜をかけっこして、お互いに水をバシャバシャと掛け合うのもお約束。
彼の颯爽と泳ぐ姿にたっぷり見惚れたあとは、浮き輪に体を通してぷかぷかのんびりとバタ足で泳ぎます。
「あなたー」
砂浜に立てたパラソルに一足先に戻った彼に手を振ると、果物を搾って二人分の飲み物を作っているその手を止めて、毎回律儀に手を振り返してくれます。
幸せー
旅の醍醐味と言えばやっぱり食事も外せません。
本日のお食事は
朝は魚介類を中心にシンプルながら素材の味を引き立てるような料理。
昼はサンドイッチとクレープの軽食に果物や甘めのお菓子で疲れを取るような配慮が。
夜は宮中晩餐会もかくやのフルコースが並びます。
毎日毎日、厳選素材の素晴らしい料理を堪能しております。
うちの料理長の料理もそれはそれは大変に素晴らしく当家の自慢でもあるのですが、これはそれ以上…… 離宮にも手を抜かないのは流石です。
明日は少し内陸に入ったところにある湖が綺麗だそうなのでそちらへピクニックに行く予定です。
少し我が儘を聞いてもらって昼食のサンドイッチは私が作ります。
喜んでくれるといいな。
この地域は他にも見所は多いそうですので、それらを二人で一緒に回れると思うと楽しみです。
ゆったりとしながらも充実した日々は、あっという間に過ぎていきます。
これだけ充実しておりますとすっかり気持ちもリフレッシュ…………気力も充実して夜もそれはもう……
ベッドメイク担当者の方……とてもお世話になりました。
大変感謝しております。
ああん、もうだめです、あなた……しんじゃいますぅ
そして、あれから七ヶ月。
旅行中に妊娠したらしい私のお腹は、いまや立派に大きくなってきています。
胸も少し大きくなってきました。
ちょっと嬉しい。
私の体では出産は危険だとも言われました。
自然分娩はまず無理で、帝王切開となれば相応の覚悟をしてくださいと。
けれども、私は彼の子供を産みたいのです。
二人の命を繋ぐこの子を。
かと言って私がここで終わってしまうようでもいけません。
彼の妻として、お腹の子供の母として、愛しい二人に悲しい思いをさせるわけにはいかないのです。
この子は、彼と私で育てていくのです。
乳母も頼まないつもりですので、その為にも先輩お母さん方からよくアドバイスを頂いてます。
太りすぎないよう、栄養不足にもならないよう、食材にもにも気を配ります。
赤ちゃんが変な方向に向かないように、体を冷やさず、適度な運動を心掛け……
病気にも気をつけます。
最近は母乳保育にも備えて、おっぱいマッサージの仕方も教わり始めました。
散々脅された妊娠線も今の所大丈夫そうですが、最後までお手入れに気を抜かないようにして……
無事に産まれてきてね。
お母さんも頑張るから。
そして妊娠から約十ヶ月。
陣痛が始まった私は今、王族専用の病院に居ます。
王族専用です!
しかも医療スタッフは女性王族担当者の中から、さらに王様ご一家担当となった経験豊富な方々……
そしてなんと自然分娩に挑みます。
何があっても対処してみせるわと言って下さった先生がなんて頼もしい。
ああ、王太子殿下本当にありがとうございます。
そして、殿下の信頼を得てくださった旦那様……本当にありがとうございます。
私、立派に子供を産んでみせます。
陣痛の間隔が短くなり、ついに破水しました。
「ひっひっふー、ひっひっふー……」
子沢山の奥様に教えて頂いたこの呼吸法は、出産が少し楽になるのだそうです。
経験は大事です。
そんな奥様方の知恵に守られて
「頭が見えたわ、もう少しよ、頑張ってイキんで!はい、ひっひっふーひっひっふー」
「血圧正常、脈拍も大丈夫! いける!さあ、あと少しよ!」
最高の医療スタッフに守られて
そして何より……
「もう少しだっ、頑張れ!」
いざその時がきたら、初産の辛さになんにも余裕を無くして唸り声をあげるしかできなくなった私を……
そんな私の手をしっかりと握ってくれているこの人がすぐ側にいてくれる。
彼の愛に勇気づけられて、残った力を振り絞る……
「おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー」
出産……できました。
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無事出産しました。
産まれたばかりの我が子を抱いてその重さをしっかりと確かめます。
子供は黒髪に青い瞳で私たち二人の色を引き継ぐ、とても元気な女の子です。
目元が彼にそっくりです。
そして、私もとても元気です。
そして、出産から一週間……
今、色々な事を実感します。
……勝ちました。
遂に勝ちました。
運命に、かんっ!ぜんっ!しょうり!ですっ!!!!!
うわ―――――――――ん
涙が溢れて止まりません。
あの実感がありすぎた悪夢はひょっとしたら本当にあった事なのかもしれません。
だとしても、リーンハルト様と共にあり続けることこそが運命だったのでしょう。
だからこそ今ここに私がいて、あの人がいて、そしてこの子がいる。
二人が心から愛し合っているからこそ、この子は私たちをより強い絆で繋いでくれた……
今、それがはっきりと解ります。
それはきっと次の未来への幸せな繋がり…………
お互いがお互いに行動で、言葉で気持ちを伝え、心から信じて愛し合える事……
あの悪夢の日々に足りなかったもの……
つまりはそういう事だったのでしょう。
どうだった? 夢の中のもう一人の私。
貴女が居てくれたから、私はここに辿り着けた。
これが貴女が最後に夢見た世界よ。
やっと貴女に見せてあげられた……
今、私は心から言えます。
幸せです。
True End