その6 決着
あれから毎日、大満足です。
いえ、性生活だけのお話しではありませんよ?
……それもありますけど……いえ、きちんと休息日も頂いてますよ?
休息日明けの旦那様の逞しさと言いましたらもう……
侍女からも、すぐにでもお世継ぎが期待できますねって言われてまして。
えへへ
こほん。
いえ、そういうお話しでは無いのです。
彼のお帰りが早くなって一週間。
ヨーゼンヌ侯爵婦人からお茶会の誘いが届きました。
今度は身も心も軽やかに、喜んで出席致しましょう。
「あと一週間ね。貴女のパーティードレスが今から楽しみで仕方ないわ」
「はい、ご期待下さい。渾身のドレスでローザリンデ様を悩殺してさし上げます」
「あら? わたくしを悩殺してどうするのですか」
笑われた。
いいのです。
彼と巡り会わせて頂いた貴女には笑っていて頂きたかったのです。
「光栄ですけれど、悩殺するならリーンハルトにしなさいな」
「旦那様は何を着ても悩殺できますから」
「まあ」
とても嬉しそう。
私も嬉しいです。
「そうそう、リーンハルトと言えば……」
あれ?この言い回しは……
「あの子、色々と影から嫌がらせを受けているらしいというお話しはご存じ?」
「そうなのですか?」
「それも、あの子の一番の親友という……」
「…フリードリヒ……様…………ですか?」
「そう、その子」
まだ終わっていなかった?
「旦那様が言うには、今までは子供の悪戯のようなものだったらしいのだけど、最近、何か様子が違うらしくて……」
「そんな……」
「気をつけていなさい」
「はい。わかりました」
今度こそ。
今度こそ失敗しない……
私の誕生日パーティーの日……
招待されているはずのあの男はいなかった。
それでも用心のため、侍従長に声をかける。
「お願いね?」
「心得ております。旦那様に万が一も無き様、万全には万全を期して対処致します」
絶体に失敗しない。
あの悪夢は、今、この時の為に見た筈だから。
パーティーも終盤にさしかかったその時……
……会場の入り口が騒がしい。
「何事だ?」
訝しげに彼がつぶやく。
するとまっすぐこちらに笑顔で向かってくる一人の男性が目に入った。
「フリードリヒ!」
ようやく現れた親友に彼は顔を綻ばせる。
私は侍従長を見て、小さく頷く。
今がその時。
彼は両手を広げ、フリードリヒ様に歩み寄っていく。
そしてフリードリヒ様が懐から短刀を取り出した。
「取り押さえろ!」
その瞬間、侍従長の指示がとぶ。
フリードリヒ様を取り囲むように歩いていた護衛の者達がその声にはじかれるように一斉に彼を抑えに飛びかかった。
「くそがああぁぁぁ!!!!!」
取り押さえられたこの男は、わめき叫びながら暴れるが、屈強な護衛の者達はびくともしない。
「フリードリヒ……」
傍に転がる短刀を見るとそれ以上の言葉を失い、親友だった筈の男を見つめる彼……
「お前がっ!お前さえ居なければ!!地位もエリーゼも私のものだったんだ!!!!! お前さえっ!!!!!!」
哀れな男の末路…
かつて彼の親友だった筈のこの人は、どこで道を間違えたのでしょうか。
フリードリヒ・ハイデッガー子爵公子の起こした、王太子からの信任厚く、また、社交界での発言力が高いヨーゼンヌ侯爵の後ろ盾も得るリーンハルト様を殺害しようとしたこの事件は大きな波紋を呼びました。
そしてあの男は王都を追放され、二度と不埒が行えない様、呪いのまじないを受け遠い流刑の地に流される事になりました。
この先、一生この王都の地を踏む事はないのでしょう。
私たちの前に現れる事も……
結局、私たちはこの事件の煽りをうけて旅行をずらさないといけなくなりました。
私としてはやり遂げました感ばっちりだったのですが、彼が落ち込んでしまわれたので仕方がありません。
海のシーズン過ぎちゃいますね……
あ、今日も旦那様を慰めて差し上げないと。
では、失礼いたします。
エリーゼのその慰めの度を越した甘やかしが、リーンハルトの立ち直りを遅らせていることに彼女が気付くよしも無かった。
最もそれで立ち直りが遅れた事により王太子とヨーゼンヌ侯爵が更に心配し、ある恩恵を得ることになったのだが、それもまた、エリーゼの知らないお話。