その1 夢
「…ま………様…………奥様っ!奥様っ!」
体が強く揺すられ目が覚める……
…涙……?
目を覚ますと、自分が今まで涙を流していたことに気づく。
「奥様、大丈夫ですか?」
「…なにが………あったの……?」
「酷くうなされていたのです。涙までお流しになって……」
「そうでしたか……」
悲しい夢だった。
私が愛しい旦那様を裏切って彼の親友と……
そして最後は……彼も、私も…………
まるでそれが本当にあった事かのように感じて、体が震える。
「奥様!?」
「ありがとう…… よく起こしてくれたわ」
「勿体ないお言葉を…… 大変に失礼かとも思ったのですが余りに……」
「いえ、本当にありがとう……」
まだ震えが止まらない…… 怖い……暗い闇が…私を……包んで………………
「エリーゼ!大丈夫か?」
「あなた!」
彼が私の寝室に駆け込んできた。
侍女が呼んだのだろう。
それも含めて彼女の良い判断だったと思う。
起こして貰えなかったら、今こうしてこの時、この人が目の前にいなかったら、私の心はどうなっていたか…… もしかしたら壊れていってしまったかもしれない……
それほどの闇の悪夢……
彼がその闇を切り裂いてくれた…そんな気がする……
そして今、愛しい彼が私の目の前に……
思わず彼の胸に飛び込んだ。
侍女は何も言わず部屋から下がる。
「リーンハルト様、リーンハルト様っ」
強く強く抱きしめて存在を確かめる。
今、ここに彼が居てくれる代わるものの無い絶対の安心感。
ああ、この人だ。
私の心が求めてやまないのは……
やっぱりこの人だけだ。
彼を抱きしめて泣きじゃくる私を、彼は優しく抱きしめ返してくれる。
「リーンハルト様ぁ」
大粒の涙を零しながら彼に縋りつき、片時も離れたくないと必死に彼の唇を舌をむさぼるようなキスをする…… 強くそして激しく……
ああ、リーンハルト様、愛しています。
私の愛しの旦那様。
どれだけの間キスをしていたかわからなくなった頃、名残を惜しむ気持ちを表すかのように唾液がつーっと二人を繋ぎながら、唇を離した。
「リーンハルト…さま……」
彼は深夜に突然とり乱した私に戸惑いながらも、縋るようにうるんだ瞳で彼を見つめる私の頭を優しく撫でてくれる……
「エリーゼ……」
そして彼の瞳が真っ直ぐに私の目をじっと見つめる…この瞳にかつての私は救われた…そして今も……
「怖い夢を見たんだな、エリーゼ。お前がそこに何を見たのかはわからない……が、大丈夫だ。俺にはおまえしかいないし、何があろうとおまえを手放したりなどしないし、おまえから決して離れていったりもしない。だから心配するな…… 俺を信じろ」
そして私が今一番心から欲しかった言葉を言ってくれた。
はい。
愛しています、私の旦那様。
私は、ずっとあなただけのものです