癖と再会
お待たせしました。
「う、ちょっとだるい。あまり寝れなかったから寝不足だ」
朝、の時間はもう過ぎていた。外を見ると太陽が南東に見えた。
窓の外は快晴、太陽の光が痛いほど突き刺してきた。
今日、城から迎えが来るらしいが……ここにいるか。
煙草に火を点け、「ふう」と紫煙を吐く。1時間程するとシェスが入ってきた。
「ユウキ、あんたねえ起きてるんだったら早く下に来なさい?」
「分かった……で、身体は大丈夫なのか?」
「完全に二日酔い、だから早くして」
そう言うと眉間を摘みながら部屋を出て行った。
あ、マズったかな……準備していくか。
階段を下りると沙紀とシェスが既に準備を終え待っていた。
その脇には城から来た兵士が待機している。
「では揃いましたね。では城へ案内いたします」
兵士がそう言ってドアを開けた。
正面から見る城はとてつもなく大きかった。塀は端が点になるまで続きその端には見張りの為の高い塔が立っていた。
正面に巨大な城、ヨーロッパにある城位の大きさのものが2つ程その脇に建てられている。
それ以外にもたくさんの屋敷が建っていてそれぞれが省庁になっていると言う。
正門から入り、通された部屋はどうやら執務室らしい。
正面には大きな机と椅子。それ以外にはソファーが2つとテーブルがあるだけ。必要最低限の物しかない。
「ここで暫しお待ち下さい。間もなく審査が始まりますので……」
兵はそう言って部屋から出て行った。
「シェスはこの城に来たことってあるのか?」
横に座っている、落ち着いた様子のシェスに聞いてみた。
「仕事で前にちょっとね。窮屈であんまり好きじゃないから」
ソファーに座っていたシェスは苦笑いをいていた。
沙紀は窓から見える風景をじっと見ているだけで会話も気にしてない。
10分程するとドアから3人の人が入ってきた。
50歳前後の男、歳は1つか2つくらい年下の少女、もう1人は黒いローブを目深に被って顔は見えない。
男が正面の机に座り、少女が左、ローブの人が右の形になっていた。
「宰相殿! ……それの王女まで! ……どうして」
「『宰相殿』は止めてくれ、久しぶりだね、ローシェス君」
シェスは立ち上がってそれだけ言うと、ただ口をぱくぱく開けるだけだった。
「ここ数年は私が主に担当していてね、久しぶりの異邦者だから楽しみにして来たんだよ。
それに王女は同じ年頃と聞いて、どうしても。と言われてね、連れて来たんだ。それに何より仕事が堂々とサボれる」
宰相……とか言ってたな、この人ってかなりフランクな感じだな。
それに王女とか言ってたな……確かに気品みたいのは感じる、
しかも金髪で瞳まで金色、今は可愛いが成長したら美人になるって感じだ。
「ソファーに座ってくれないか? ……では審査を始めよう」
そう言ってシェスをなだめてソファーへ座るように促した。
「その前に私はこの国で宰相を務めているヘーリセン・ソル・ケドールと言います。
こちらが王女のセラレイア・ルゥ・ノルヴェート・スーアル様です。
こっちが真偽を確かめる為の審査官といった所ですかな」
「初めまして、セラレイア・ルゥ・ノルヴェート・スーアルと申します」
王女と審査官がそれぞれに挨拶をした。
「まあ、審査と言っても先日提出した書類の真偽、それとこれからの身の振り方なんかを相談したりするだけだからそんなに緊張しなくてもいいのですよ」
まるで警察の自調聴取みたいなものだと思っていたから拍子抜けした。
「はあ」
「では、ユウキ・サナダ君、サキ・カンザキ君、あなた達はニホンと言う国から来たそうだね」
「はい」
「では、その国の言葉で自分達がこの世界に来る前後を話してくれないか?」
「はい、分かりました。では……」
沙紀と目線を合わせて、自分の中の言葉を切り替える。
『俺達は普段、学校に通っていて、その学校が夏休みに入って花火大会に出かけました。
話していた時、急に光が俺たちを包み込んで気付いたらこの世界にいた訳です』
もう1度沙紀と目線を合わせてその沙紀を先が続ける。
『気付いたら私たちはでこちらの世界に来ていたんですけど』
審査官が宰相に耳打ちをしている。
俺たちが言った言葉を理解しているのか?
「やはり君達は本物の異邦者だね。はい、これで審査は終了。
この後、君達にはこの世界での常識や適性等の講義や試験をこの城で受けてもらう事になる」
「それでしたらアタシが教えておきました」
シェスが自慢気に言った。
「さすがはローシェス君、仕事が速いね……では特異能力は?」
その言葉にシェスは少し表情を曇らせていた。
「サキの方はもう発現しています。どうやら「言語解読」だと思われます。古代文字が読めていましたので……
ユウキのほうは魔装盤で中央の核石が光っていました。それが何を意味するのか、までは分かりません」
そこまで聞くと宰相は少し考えていたが暫くすると立ち上がった。
「分かりました、では私はこの事を王に申し上げた後、部下に手続きをさせますので失礼します」
そのまま部屋から出て行った。後に残った王女と審査官は向かいのソファーに座りこちらを見ていた。
「んー」
いきなり王女、セラレイア……が背伸びを始めた。
「はぁ、やっとヘーリセンが行ってくれたわ……
わたしの歳と同じくらいの人っていなくて……暫くはお城にいるのでしょ?
その間わたしと遊んでくださいね」
「レイア!」
審査官が少し強い口調で王女を向いていた……王女は気にしない様子でいた。
この審査官って女の人なんだ。声からするとまだ若い感じなんだけど顔が見えないからな。
「あなたこそいい加減それ取ったら?」
王女がフードを指差していた。
「い、いやこれは……ちょっと……」
「どうして? さっきまで会えるって楽しみにしてたじゃない……ほら!」
「あっ! ……」
王女が素早くフードを取ろうとして審査官が押えようとしたが、間に合わずフードが取れる。
髪は茶色で金色の瞳をしていた。17,8歳くらいの少女ではなく女性といった感じだ。
その顔を見たとき俺は頭からつま先まで衝撃に貫かれ立ち上がった。
「……なっ! ……み…………み……こ……と……」
*
俺の目の前にいるのは紛れも無く美琴だった。5年前突然行方不明になった唯一の姉弟、真田美琴だ。
……何故!? ……どうして!? ……ここに!? ……異世界に!?
「ひ、久しぶりね、悠稀」
たったひと言で俺の頭の中でパズルのピースが1つ組み合わされた。
「……美琴姉! …………美琴姉! ……やっと会えた……美琴姉! ……」
外聞も関係なく美琴姉に抱きついていた。
嬉しかった、ただそれだけだった。
「どうして美琴姉はここにいるの?」
「あなた覚えてないの? あの日、光に消えた私を」
「あ……」
よく夢で見る日の事だ。
「ごめん……あの日のことはよく覚えてないんだ……」
「そう……子供のあなたにはショックだったから記憶を無くす事にしたのね」
ああ、ここにいるんだ……美琴姉がここにいるんだ。
「悠稀、ちょっと離れてくれない? 少し恥ずかしいから」
「ご、ごめん……つい、嬉しくって……」
もといたソファーに戻って俯いてしまった。自分でも分かるくらい顔が熱くなっている。
「まだ、その抱きつく癖って直ってなかったのね」
その後色々な事を言っていたが頭に全然入らなかった。
目の前に美琴姉がいるだけで頭の中が真っ白になっているのだ。
*
「悠君、悠君ってば……大丈夫?」
「あっ、……何? ……」
沙紀に呼ばれるまで気が付かなかったが、今はさっきの執務室ではなくどうやら個室に移っていた。
「さっきからボーっとしてるけど……さっきのあの人本当に姉弟なの?」
「美琴姉のこと? れっきとした姉弟だよ。5年前まで一緒に住んでた。鷹斗と瑞希も知ってる」
「そう……なんだ」
さっきから何か不機嫌そうだな。……そういえばシェスがいない。
「沙紀、シェスはどこ行ったんだ?」
「さっき呼ばれてどこかに行っちゃった」
「あ、そう」
やっぱり沙紀不機嫌だな、……こう空気が悪いと辛いし、何か話した方がいいんだけど……
なんだかなあ……はぁ。
「そういえばさっき、これからどうこうって話、俺覚えてないから教えてくれない?」
くすっと笑ってベッドで寝ている俺の横に座って話し始めた。
「いいよ、じゃあ…………」
少しは機嫌直ってくれたかな……
沙紀の話の内容は……俺達はこの城で俺の特異能力が有無が判別できるまで暫く暮らすそうだ。
沙紀は、もう特異能力が発現しているからそれを活かして古文書、古代語の翻訳を手伝うのだと言う。
沙紀は話し終えると用意された自分の部屋に戻って行った。
*
それから3週間は特に何事も無く城で過ごしていた。
シェスはあの宰相に捕まって今は溜まっていた仕事をこなしている。
沙紀は翻訳、俺はと言うと…………
「ユウ、早く追いついて! ……まだまだね」
「…………あたりまえだ……はあ、はあ、……姫さんよ、俺は馬になんて乗ったこと無かったから」
城の近くの丘。周りには草原、見渡しが良く緑色の絨毯が広がっている。
いつもここで他愛の無い話をしたり昼寝と言うのが日課になっていた。
「でも毎日乗ってるからだいぶ上手くなってるでしょ?」
「まあ、そうなんだけどな」
と、毎日王女の遊び相手になっていた。
もちろんそれだけでなく午前中は沙紀の手伝いもやって午後は姫さんの相手をしているのだ。
夜は美琴姉に文字を教えてもらっている。
「もう、その「姫さん」って言うの止めて。前から『レイア』って呼ぶように言ってるでしょ?」
「でも一応1国の王女なんだからさ、な?」
毎回同じ言い訳をしてもレイアは引かない。いつも折れるのはこっち。
「ダメ! 私たちは友達なんだからそういうのは無し!」
「はあぁ、判ったよ。……レイア」
そう呼ぶとレイアはとびっきりの笑顔で答える。でも次の日からはまた「姫さん」に戻るんだよなぁ。
そしてもうそろそろあいつが来る頃なんだが……
「…………セラレイア様、お待ち下さい! 困ります。どうして私をお呼びになられないのですか?」
馬を急いで走らせて来たのは蒼騎士のリューク・アス・アーリスクスだった。
リュークは簡単に言えば姫さんの警護を担当していて、外に出る場合は必ずついてくる。
……と言うかそれが仕事だ。
「だってお城は窮屈で話し相手もいなくて暇なんですもの!」
姫さんはさも当たり前のように言うとリュークは困っていたがこれもいつものやり取りだった。
「ですが私の立場と言うものもあります」
いつもはここで渋々了承する姫さんだったが、今日はいつもと違い笑顔のままだった。
「私ね、良い事思いついちゃったの!
来週の剣技大会で上位に入れれば私の警護って事で一緒にいられるんじゃないかって!」
「…………は?」
思わず間の抜けた声が出た。
それがリュークも同じだった様で固まっていた。
「そ、それはそうかもしればせんが……しかしですね、もう日数が5日しか無いんですよ!?」
「え? なに?」
剣技大会……毎年開催されている魔装具を使わない大会で上位入賞者には騎士として軍部に入ることもあると言う。
どういう大会かは話だけは聞いている。
しかしその大会は国内各地から腕自慢や騎士になろうとしてやって来る者も多く毎年平均200人は参加するらしいが……
「そこを何とかしちゃうのがリュークじゃないの?」
「あの~、俺の意見は……」
無視ですか? 無視なんですか?
「ですが先程も申し上げましたが日数が……」
リュークは困っていたが姫さんはもう決めてしまったらしく、こうなってしまってはもう遅い。
リュークもそのことはもう知っているのでいつもとは立場が逆に渋々了承したのだった。
次の日の昼から練習が始まり、それはもう大変なものだ。
体力作りと言って1時間ずっと走らされたり、実戦形式と言って模擬剣でメッタ打ちにされたりと痣だらけの身体になった。
リュークは普段の鬱憤を晴らすかのようなしごきだったし、姫さんは姫さんでなんか嬉しそうに見ていて何もしようとはしなかった。
そして大会を前日に迎えた夕方、修練場にて最後の仕上げと言うことで乱取り稽古をしていた。
ここには軍からの出場者の5名と悠稀、リューク、アトレイアがいた。
「はぁ、はぁ、……もういいんじゃ……ないかぁ?」
軍からの出場者全員との乱取りを終え、息も絶え絶えの悠稀が膝を付いていた。
「そうだな……15分休憩後に私との稽古で終わりにしよう。
あまりやると明日に響きかねんからな」
などと、まだ続くことを告げると悠稀は大の字になって寝そべった。
「もう、だらしないわね。そんな事じゃ上位入賞は出来ないわよ!」
と、アトレイアは悠稀に近づき寝ている悠稀を見下ろしている。
「んな事言われても……、きついんですけど。
姫さんもやって見れば分かるから」
「私は護身程度でいいの。
それにまだ14歳のいたいけな美少女にはカッコいい騎士に護ってもらうのが似合うんだから」
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